塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 昨日レナルドに残された痕はまだ消えていないため、首元をスカーフで覆っているのだ。

 痛ましげな視線を向けられるのが落ち着かなくて、ラシェルは意識して明るい声をあげた。 

「私は平気ですから、謝らないでください。それより、朝食にしましょう。昨晩も食事をとられていないでしょう?」

「本当に、すまない」

 低い声でそう言って、レナルドは席についた。

 会話のないまま食事をしながら、ラシェルはレナルドをじっと見つめた。少し顔色が戻ったような気はするが、その表情は険しいままだ。眉間には深い皺が刻まれ、何かを考え込んでいるようだ。昨日のことを、彼はそんなに気にしているのだろうか。

 今の彼は『愛する妻』を傷つけたと思っているのかもしれないが、そうではないのだと伝えなければならない。ラシェルを愛していないと知っていれば、セヴランと一緒にいるところを見られたとしても彼は嫉妬するようなことはなかったのだから。

 全ては、ラシェルが偽りのこの関係をずるずると引き延ばしてしまったせいだ。

 ちゃんと本当のことを話さなければと覚悟を決めて、ラシェルは顔を上げた。

「あの、レナルド様」

 呼びかけると、彼の肩がびくりと震えた。おずおずとラシェルを見るその顔は、どこか怯えているように見える。

「私、レナルド様にお話ししたいことがあって」

「話……?」

「はい。ですから、少しお時間をいただきたいんですけど」

 ラシェルの言葉に、レナルドは凍りついたように動かない。

 しばらく黙りこくったあと、レナルドはゆっくりとうなずいた。

「分かった。俺も……きみに、話したいことがある。週末、話そう」

「分かりました。では、よろしくお願いします」

 約束を交わすと、二人は再び会話をすることなく、食事を終えた。
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