塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 ここ数日の甘い日々が嘘のように、レナルドはラシェルに触れなくなった。

 仕事が忙しいからと夜遅くまで帰ってこないし、寝室ではなく別の場所で眠っているようだ。

 二人で過ごす幸せを知っているからか、今の状況は結婚した時よりも孤独を感じる。だが、もともとこれが普通だったはずなのだ。あの甘く幸せな日々は夢でしかなかったのだと、ラシェルは自分に言い聞かせている。

 朝食だけは一緒にとっているものの、もちろん会話はない。ただ、レナルドは時折ラシェルをどこか苦しげな表情で見つめる。
 そんな顔をさせてしまうことが申し訳なくて、ラシェルの方からも話しかけることができずにいた。

 約束の週末までまだ日にちはあるが、ラシェルは落ち着かない心を持て余している。鼓動はずっと速いし、ふとした瞬間にため息ばかり漏らしてしまう。お気に入りの書庫で本を読んでいても一向に内容が頭に入ってこなくて、ラシェルは読書を諦めて本を閉じた。

 気分転換に庭を散策してみたら、四阿が目に入って胸が苦しくなる。あそこで過ごした幸せな時間が、遠い昔のようだ。

「ちゃんと覚悟を決めたはずなのに、未練がましいわね」

 ため息をつくと、ラシェルは四阿に背を向けた。

 部屋に戻ると、ラシェル宛にブラン男爵家から手紙が届いていた。差出人は兄のエリクで、懐かしい筆跡に嬉しくなる。封筒を開けると、ラシェルは手紙を読み始めた。

 穏やかな兄らしい文章で、ラシェルの結婚生活を気遣う内容が綴られている。そしてヴァンタール侯爵家からブラン男爵家に金銭面での援助をしてもらったおかげで、壊れていた農具を買い替えたり、幼い妹に新しい服を買ってやったりすることができたと感謝の言葉が並んでいた。
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