塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「わ、私から離縁を申し出るつもりなんてありません。私はレナルド様をお慕いしていますし、悪く言うのはやめてください」

 はっきりとそう告げると、セヴランは衝撃を受けたような顔をして目を見開いていた。そして、小刻みに震え始める。

「は……? 何言ってるんだよ。おまえは、おれのことが好きじゃなかったのか」

「えっ」

「あいつを慕ってるって、どういうことだ。結婚して、優しくされて絆されたのか」

「違う……私はずっと前からレナルド様のことが……」

「ずっとって、いつからだよ!? おまえはおれのことが好きだろう? なぁ、そうだって言えよ!」

 真っ赤な顔で詰め寄られて、ラシェルは逃げるように身体をよじる。だが腕を掴まれたままなのでほとんど動くことができない。

 少しでも距離を取ろうと身を引きながらも、ラシェルはセヴランをまっすぐに見つめた。

「……っ、あなたを好きだと思ったことなんてない。私が好きなのは、レナルド様だけだわ」

 それを聞いて、セヴランは信じられないといった顔になる。荒い息を吐いたセヴランは身体を震わせ、血走った目でラシェルをにらみつけた。

「家のために望まない結婚を受け入れたおまえを、助けてやろうと思ってたのに……。ずっと可愛がってやってたおれを、おまえは裏切ったんだな」

 セヴランは低い声でそう言うと、ラシェルの腕を掴んだまま後方に顔を向けた。

「おい、手を貸せ。こいつを連れて行く」

 その言葉に、近くに停まっていた馬車から数人の男が降りてきた。黒いフードをかぶっていて顔はよく見えないが、身のこなしから貴族ではなさそうなことだけ分かる。

「あれっ、望まぬ結婚に泣き暮らす憐れなお嬢さんを助けに来たんじゃなかったのか?」
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