塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「あぁ、戻っている。全部思い出した」

「……申し訳ありません、私……」

「どうして謝るの、ラシェル?」

 顔をのぞき込んでくるレナルドから逃れるように身体をよじり、ラシェルはうつむく。だが抱き寄せる腕は一向に揺るがない。

「だって私……嘘をつきました。私たちは政略結婚で、愛しあってなんかいなかったのに。レナルド様の記憶がなくなったのをいいことに、勝手に関係を変えてしまって……」

「どこに嘘なんてあったかな。俺はずっとラシェルのことが好きだし、ラシェルも俺のことを好きだと言ってくれた。俺たちは、愛しあう夫婦だ。――違う?」

 下を向いたラシェルの頬に手を添えて、彼は上を向くように促す。ゆっくりと視線を上げれば、レナルドは変わらず優しい笑みを浮かべたままだった。

「さっきも伝えたけど、俺はずっと……子供の頃からラシェルのことが好きだ。このお守りがあったから俺は騎士になれたし、きみがくれた『困っている人を迷わず助ける』という言葉は、俺の人生の指針になった。どうしてもきみのそばにいたかったから、結婚を申し込んだんだ。数年分の記憶を失ったって、俺がラシェルを愛していたことは何も変わらない」

 レナルドは、胸元から騎士団の身分証である手帳を取り出す。一番最初のページには、覚えのある古びた栞が挟み込まれていた。大切にしてもらっていたことが分かり、胸がいっぱいになるのを感じながら、ラシェルはレナルドをじっと見つめた。

「いつから……記憶が戻っていたんですか?」

「この前、ラシェルが書庫で脚立から落ちそうになっているところを助けただろう。あの時に、思い出した」

 その説明に、ラシェルも納得してうなずく。あの時のレナルドは、明らかに様子がおかしかったから。
< 156 / 167 >

この作品をシェア

pagetop