塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 ある日、朝食の席で向かいに座ったレナルドがそう話しかけてきた。普段はほとんど会話もないので、珍しいこともあるものだと内心驚きつつ、ラシェルはうなずく。

「えぇ、もちろんです。レナルド様は、今日はお休みでしたよね」

「あぁ。きみに見せたいものがあるんだ」

 何を見せてくれるのか分からないが、彼のほうから何かを提案してくれたことに少し心が浮き立った。休日を二人で過ごすなんて、初めてのことだ。

 あまりはしゃがないよう意識しながらも、口元がつい緩んでしまう。どんなに『形だけの妻』だと自分に言い聞かせていても、やっぱりラシェルはレナルドのことが好きなのだ。

 食事のあと、レナルドの案内で屋敷内を歩く。越してきてから一週間が経つが、広い屋敷内はまだ知らない場所がいっぱいだ。

 日当たりのいい一階の廊下を進み、黒い両開きの大きな扉の前でレナルドは足を止めた。どうやら目的地はこの部屋らしい。

 鍵を開けたレナルドが、ラシェルに中へ入るよう促す。少し薄暗い部屋のようだが、かなりの広さがありそうだ。

「わぁ……!」

 部屋の中をのぞき込んだラシェルの口から、知らず歓声が漏れる。部屋の壁は全て本棚で埋め尽くされており、まるで小さな図書館のようだ。

 物書きができるような机や、座り心地のよさそうなソファもあり、読書に没頭できる環境が整っている。

 本を読むことが好きなラシェルは、思わず目を輝かせた。

「基本的に、きみには侯爵夫人としての社交を求めることはない。とはいえ一日中屋敷にこもっていても暇だろうから、この書庫で本でも読んでいてくれたらいい」

「それって、私にとっては天国のような環境なんですけど……」
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