塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 ちらっと本棚に収められた背表紙に目を走らせるだけでも、読んでみたかった本や気になるタイトルがたくさんだ。実家の男爵家では本をたくさん買えるほどの余裕はなかったので、いつか自分専用の本棚を持つことはラシェルにとって夢だったのだ。それがまさかこんな形で叶うとは思わなかった。

「この部屋は、レナルド様が用意してくださったんですか?」

 読書が好きだと話した記憶はないが、もしかしてと小さな期待を込めて問いかけると、レナルドは曖昧にうなずいた。

「俺が用意したというか……、亡くなった祖父が本好きだったんだ。俺はあまり本を読まないし、きみが読んでくれたら祖父も喜ぶだろうと思って」

「そうですか。では、先々代の侯爵閣下に感謝ですね。レナルド様も、そんな大切なお部屋の使用許可をくださり、ありがとうございます」

 あまりの嬉しさで、ラシェルは満面の笑みを浮かべて礼を言う。レナルドは淡々とした顔のままなので、はしゃぎすぎたかと慌てて表情を引きしめた。

「鍵を渡しておくから、好きな時に使ってくれて構わない。欲しい本があれば、追加で購入してもいい」

「ありがとうございます」

 鍵を受け取る際に指先が微かに触れあって、ラシェルの胸が小さく音をたてる。だがレナルドは何も感じていない様子でさっと手を引っ込めてしまった。結局ドキドキしているのは自分だけなのだなと少し切ない気持ちになるものの、彼はラシェルのためにこんなにも素敵な部屋へ連れて来てくれた。それだけで充分だ。

 読書の邪魔になるだろうからとレナルドは部屋を出て行き、一人きりになったラシェルは室内を見回すとソファに座った。固すぎず柔らかすぎない座面は、長時間座っていても腰が痛くならなさそうだ。
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