塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「とってもよくお似合いですよ、きっとレナルド様も見惚れること間違いなしです」

 笑顔で褒めてくれたコレットに礼を言って、ラシェルは部屋を出た。

 白い日傘を手に庭へ出向かったところで、迎えに来てくれたレナルドと出会った。じっとラシェルを見つめたレナルドは、まぶしそうに目を細めると満足げにうなずいた。

「そのドレス、すごくよく似合っている。可愛い」

「あ……ありがとうございます。袖を通すのは初めてなのですが、以前にレナルド様が仕立ててくださったものなんです」

「そうだったのか。うん、さすが俺だな。ラシェルに似合うデザインをよく分かっている。きっとこうしてデートをする時のために仕立てたものに違いない」

 そう言って差し出された手を取りながらも、ラシェルはこのドレスにそんな意味などないだろうと内心でつぶやいた。『ヴァンタール侯爵夫人』として相応しい装いをするために新しいドレスを仕立てるよう、レナルドには言われたのだから。

 だが今のレナルドは、かつてそう言ったこともすっかり忘れてしまっている。ドレスに合わせた髪のリボンやアクセサリーまで、彼は大げさなほど褒めてくれた。きっとレナルドの本心ではないのだと何度も心の中で言い聞かせていても、甘く微笑みかけられて可愛いと囁かれれば、どうしても心は躍ってしまう。

 熱くなった頬を自覚しつつ礼を言って微笑めば、レナルドは嬉しそうにラシェルの腕を引いて抱き寄せてくれた。

 庭の奥へと歩を進めるうちに、甘い香りがどんどん濃くなっていく。赤やピンク、黄色やオレンジなど様々な色の薔薇が咲き誇るアーチは見事で、その向こうには白い屋根の四阿が見えた。
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