塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 言葉に詰まったラシェルの顔を悪戯っぽい表情でのぞき込んで、レナルドは頬にそっとキスを落とすと抱き起こしてくれた。だがラシェルが座っているのはベンチの上ではなく、レナルドの膝の上だ。並んで座っていた時よりも距離が近くて、ラシェルは彼の顔を見ることができない。

「な、なんでレナルド様の膝の上に座るんですか」

「少しでもラシェルに触れていたいから」

「でもあの、重たいからだめですっ」

「全然重たくないから平気だ。ほら、これはまだ食べてないだろう。口を開けて」

 ラシェルの訴えをあっさりしりぞけて、レナルドはクリームのたっぷり乗った小さなカップケーキを差し出す。断ることもできずに口を開ければ、唇の端にクリームがついてしまった。それを見て、レナルドはわざとらしく困った声をあげる。

「あぁ、ごめん。クリームが……」

「平気です、すぐ拭きますから」

「その必要はない」

「えっ」

 布巾に伸ばした手を止めるように握られたと思ったら、レナルドの顔が近づき、ぺろりと唇付近を舐められた。驚きに目を見開いていると、悪戯が成功したような顔でレナルドが笑った。まるで少年のようなその表情は、いつものキリッとした姿とは違って可愛らしく見える。

「もう一つ、食べる?」

「またクリームをつけるつもりでしょう? その手には乗りませんから」

「ははっ、バレたか」

 悪びれないレナルドの様子を見ていると、ラシェルも思わず小さく笑ってしまう。顔を見合わせて、二人は同時に肩を震わせた。

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