塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

 少しだけ眠るつもりだったのだが、次に目覚めたら昼近くになっていた。さすがに寝すぎだろうと慌てて飛び起きたラシェルは、着替えのために侍女のコレットを呼ぼうとベルに手を伸ばした。

 だがふと視線を落としたら、胸元におびただしい量の赤い痕が散っていることに気づいて思わず手が止まる。その瞬間、頭の中によみがえるのは、昨晩のこと。ラシェルを愛している印だと言って、レナルドに何度も肌に吸いつかれた。

 いくらなんでも侍女にこれを見られるのは恥ずかしくて、ラシェルはひとまずそばにあったガウンを羽織った。

 あとで起こしにくると言っていたが、レナルドはいないようだ。もしかしたら、あまりにラシェルが熟睡していて起きなかったのかもしれない。

 朝食も食べずに寝てしまったと思いながら、ラシェルはベッドから下りて立ち上がる。まずは自室に戻って着替えてから、レナルドを探しに行くことに決めた。

 その時、どこからか何かを動かすような小さな音が聞こえた。

 音の出所を探して部屋の中を見回したラシェルは、レナルドの自室に続く扉が微かに開いていることに気づいた。

「……レナルド様?」

 そっと扉の向こうに呼びかけるが、応答はない。ただ小さな物音がまた聞こえたので、彼が部屋にいるのは間違いなさそうだ。

 ラシェルは扉を開けると、レナルドの部屋をそっとのぞき込んだ。

 やはりレナルドは在室しており、何かを考えるような表情で窓の外をじっと見つめていた。綺麗な横顔が、陽の光に照らされてまぶしい。物憂げな表情が色っぽく見えて、ラシェルは声をかけることも忘れて見惚れてしまった。

 ふと、レナルドが手に何かを握りしめていることに気づいて、ラシェルは思わず目を凝らした。白い布のようなそれは、ハンカチだろうか。
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