腐女子なのでBLゲームの脇役に転生したのに、なぜか主人公もろとも巻き込んだ逆ハー展開が始まって鬱です!

――。

ドクン、と鼓動が大きく跳ねた。


この感情の名前を、あたしはとうに知っている。
でもそれは、あたしを覆いつくすような熱情的なものじゃなくて。

事実として認知し、第三者的な感覚でそうなのだと実感した。
それだけのものだ。


「……日ノ出香――」


無意識のうちに、あたしは彼の名前を声に出していた。
鼻の痛みなどとうに忘れて、ただひたすらに、それが自分にとって何者であるのか、その答えを自覚するように。


「え?……あ、菜花ちゃん!ごめんね?大丈夫?」

「あっ……。す、すみません!大丈夫です!」

色素の薄いミルクティー色のふわりとした髪から覗くオパールの瞳。

夕璃とは違う種類の人好きのする雰囲気を醸して、彼は慌てるあたしに穏やかな微笑を向ける。


「先生から君の話は聞いてるよ。最近は時間も忘れるくらいにすごく一生懸命に研究に励んでるって」

「は、はあ」

先ほどの女性と同じようなことを言う彼に返す言葉が見つからず、困ったように笑うあたしを見て、

「へえ。菜花ちゃん、なんだか……」

そう唐突に何度も頷く日ノ出先輩。


「へ?」

「ここに来た時に遠目に感じてた雰囲気よりももっと柔らかいっていうか、春の花みたいに可愛く笑うんだなって。
名前の通り、菜の花みたいだ」

「……」

下心の欠片もなさそうな純粋な笑顔をたずさえて、さらりと女性を褒める彼の手腕は見事なものだ。


「春と言えば、高校は俺と同じところに通うとも聞いたんだけど、本当?」

「あ、えーと……。実はそれを変えたくて、今日父に報告に来たんです」

「え!それってもしかして……聖翔だったりする?」

予想外にその情報を知り得ていた日ノ出先輩に素直に頷くと、彼は突然「あーっ」と大きな声を上げて、その後すぐにわかりやすく項垂れた。

「今日昼過ぎに政臣……友達から連絡来て、俺に憧れて天鳳院に進む予定だった女子が自分と話した途端に聖翔に入学先を変えたとか自慢されたんだよ」

「え、えええっ!」

(あの男――!)

ノンデリカシーなヤツの行動に舌打ちが出かけるのを必死に抑える。

(そもそも政臣が理由では全くないし)

いやしかし。
それを抜きにしても、そんな話をよりにもよって。

よりにもよって、日ノ出先輩本人にするとは何事だ。

なぜなら(元)菜花にとって彼は、ただの研究者としての憧れの存在なんかじゃなくて。

(もちろんそれも嘘じゃないけど……)

それだけじゃなくて。
――ただ異性として、好きな人だからだ。

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