月影が照らす夜の日に。

月影の照らす街《ミルディア》

人間と魔族が生存する世界。
そして今日、数十年続いた戦争が西暦3000年に休戦を迎えた。
中立都市ミルディアの夜は、どこか息を潜めているようだった。
 人間の王国と魔族の領域、その境界に築かれたこの街では、誰もが本当の名も立場も隠して歩く。
 石畳を照らす月明かりの下、レフィリアとメイリーン、セフィーラはフードを深く被り、人混みの中を進んでいた。
 ここでは、王国の貴族の娘であるという肩書きは意味を持たない。
ただの旅人として振る舞う、それがこの街の暗黙のルールだった。
「レフィー、こっちだよ」
”レフィー”と呼ばれた赤髪のレフィリアは、屋台の前で手を振っているメイリーンとセフィーラの元へ歩き出す。
そんな中、人混みの中に同じようにフードを深く被った身長の高い青年3人組の一人と目が合う。
「あの人…」
「ん?知り合い?」
「違うわ、ただ…」
言葉は続かなかった。

一方、その青年——レオナルドは、わずかに眉をひそめていた。
人間の街。
人間の気配。
それなのに、先ほど目が合った赤髪少女からは、嫌悪も恐怖も感じられなかった。
「レオ、珍しい顔してる。なんかあった?」  
軽い口調で言ったのはアルヴァートだった。
少し跳ねた髪に、小ぶりな角。
片耳のピアスが月明かりを反射する。
「何でもない」
レオナルドは短く答える。
その隣で、黒を基調とした装束の青年——べオナルが、無言のまま人混みを見つめていた。
鋭い視線は、感情を探るというより、気配を読むかのようだった。
「……魔力が、静かだ」
ぽつりと漏れた言葉に、アルヴァートが眉を上げる。
「静かすぎて逆に怖いんだけど」
べオナルは答えず、ただ視線の先を見続けている。
そこには、指先を胸元に添え、思索に沈むような表情のセフィーラの姿があった。
そして、人気が増え、夜のミルディアが動き始めた。

【レフィリアside】

月影が明るく街を照らす。
この街では、時間が関係なく一日中夜の街。
ミルディア。
人間と魔族が唯一共存できる街。
その理由には、人間も魔族も自分の正体をこの街では晒してはならないルールが存在する。
私、レフィリア・シュワルツは、人間世界で生まれ、生きてきた。
もちろん、人間だ。
「レフィー!こっち!」
遠くから聞きなれた元気な声が私の耳に届く。
振り向くと笑顔で屋台に並んでいる2人の姿。
「ええ。今行くわ」
セフィーラ・グレイとメイリーン・シルベチカ。
ふたりとは昔からの古い仲。
元々、身分が違う私たちは、遊ぶことも禁じられていたけれど、お互いの両親に黙って3人で会っていた。
そして今日も両親に黙ってこの綺麗な街、ミルディアに足を運んだ。
ミルディアには、人間世界では食べられない魔族の食事や、遊びができる。
「ここの屋台はね、昔教えてもらった食べ物なの」
寂しそうに笑って言うセラ(セフィーラ)。
そんなセラを見てメイ(メイリーン)も眉を困らせ相槌を打つ。
セラは昔、魔族に恋をしてしまったことがあり、その人から教えてもらったという話を聞いたことがある。
その魔族の男の子を今でも探しているから、たまに1人でもミルディアに足を運ぶ。
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