私の彼氏はスーパーツンデレ

 私は、彼と待ち合わせしている公園の時計台にやってきた。
 見上げた時計のただいまの時刻は、10時50分。

 待ち合わせ場所で彼を見つけるのは簡単だ。人だかりができている場所を探せばいい。


「すみません、ごめんなさい。通してくださーい……!」


 女の子たちの人垣をかきわけて進み、なんとか輪を抜けてほっと息をつくと――


「遅い! 僕を待たせるなんて、いいご身分だね」


 両腕を胸の前で組み、時計台に背中を預けながら長い脚をクロス。

 私の目の前にいる、このいかにもイケてるメンズみたいな立ち方をしている彼こそ、最近お付き合いを始めた彼氏・一ノ瀬玲央(いちのせれお)くんだ。


(きょ、今日も眩しい……!)


 艶のある黒髪から覗く瞳はガラス玉みたいに綺麗で、肌は陶器のように白い。幻覚で後光が差して見えるほどだ。


「待たせちゃってごめんね。でも、まだ待ち合わせ時間の10分前じゃ……」

「僕は1時間前からここにいた」

「1時間!? なんでそんなに早く……?」

「君に早く会いたかったからに決まってるでしょ。恋人なら、僕の愛情の強さを見越して1時間前行動して」

「そ、そんな無茶な」

(でも、怒ってる理由が可愛すぎる……寂しかったのかな~~??)


 そう。
 私・小松ひよりの彼氏は、ものすごくツンデレなのである。


「どうしてこんなに遅くなったわけ?」

「あ……実は服選びに迷っちゃって」


 結局、一周回ってサロペットスカートにボーダーのTシャツを合わせてお団子ヘアというカジュアルコーデにしたけれど、かれこれ30分は鏡の前でうなっていた。


「つまり、好きな人にちょっとでも可愛く思われたい乙女心と申しますか」

(まあ、人波に揉まれて服はシワくちゃになっちゃったし、お団子も原型を留めてるかわからないけど……)

「……まったく、君は優柔不断だね」


 玲央くんは、短くため息をつく。

 今日の彼のコーデのように、シンプルなシャツとスラックスを身に着けるだけでサマになってしまう玲央くんからすると、私の悩みはあまりピンとこないのかもしれない。

 彼は私の頭にポンと手を置いて、真面目な顔で言った。


「ひよりは何を着たって可愛いんだから、迷う必要ない。次からはクローゼットを開けて最初に手に取った服に決めること。いい?」

「……!」


 玲央くんのナチュラルなデレに、脳内にいる私の分身が富士山の頂上からこう叫んだ。


『あま――い!』


「ひより? 聞いてるの?」

「うん、聞いてる聞いてる。一瞬、富士山頂にトリップしてただけ」

「……よくわからないけど、さっさと行くよ。これ以上君とのデート時間が減るのは嫌だ」


 口元に柔らかな笑みを浮かべた彼に手を握られ、胸が甘い音を立てる。

 そのまま彼が歩き出すと、周囲を取り囲んでいた女の子たちの輪が割れて道が出来た。

 手を引かれながら、その道を通る時――


「カッコいいのに彼女は普通じゃない?」


 なんて声がかすかに聞こえ、胸をちくりと刺す。


(……まあ、そう思うよね。私も思ってるし)


 でも、すぐに気を取り直して笑顔を作ると彼の隣を並んで歩いた。こんな風に言われるのは、別に初めてじゃないから。
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