ヤノダンゴ探偵のダイレクトプレー集

【05 団子五本目:七月第二週、勇者のオジサン事件】


・【05 団子五本目:七月第二週、勇者のオジサン事件】


 これは俺も認知していた。
 今年の五月くらいからだろうか、街中に勇者の恰好をしたオジサンが出没するようになっている。
 最初は物珍しさから写真を撮られていたが、今はもうすっかり馴染んだといった感じで、誰も何も触れない。
 そういうファッションをしている人って感じだ。
 俺としては若干イタイなと思っていたが、今の時代はまあ多様性の時代だし、それはそれでありなのかなとは思うようにしている。
 勇者の恰好というのは、緑色のローブのような服を着て、段ボールで作った剣を持っているといった感じ。
 剣まで作るなら兜も作ればいいのに、とは正直思っている。
 そんなある日、俺の机の中にこんな手紙が入っていた。
《キムチくん、ヤノダンゴ探偵さん、こんにちは》
 何このラジオのメールみたいな書き出し。
《勇者の恰好をしたオジサンの動きが最近怪しいと思いませんか? いやそもそも元々おかしいです》
 勇者の恰好したオジサンの話だ。まあ怪しいと言えば元々怪しいけどな。
《あの人のことをちゃんと調査したほうがいいと思います。それでは》
 差出人は不明の手紙。
 勇者の恰好をしたオジサンかぁ、でもあういう人にあんまり関わりたくないんだよなぁ。
 それに何で俺に手紙が入っていたんだろうか。普通ヤノダンゴ探偵、というか征喜の机に手紙を入れないか? そんなことを思っていると、征喜がタイミング良く近付いてきて、
「どうした! スカウトされたかっ!」
 俺はすかさず、
「誰にだよ、スカウトだけじゃもう野球とかもあるんだよ。サッカーオンリーワードじゃないんだよ」
 俺が手に持っていた手紙を奪い取るように掴んだ征喜はその手紙を黙読し始めた。
 いやこれが告白の手紙とかだったらどうするんだよ。別に違うからいいけども。俺もモテるほうじゃないし。
 読み切ったのであろう征喜は大声で、
「これは事件の手紙だぁ! 早速放課後に取材開始だぁっ!」
 というか多分征喜がこの手紙入れたんだろ、この前から白々しいんだよな、探偵ごっこの宣伝してた子のくだりとか一切声を出さずにさ。まあいいや、まどろっこしいし、言おう。
「この手紙、征喜が入れたんだろ。そんなことしなくても俺手伝ってやるからさ」
 征喜は首をブンブン横に振って、
「それは知らん! ボクは手紙でなんて書かない! 面倒だ!」
「確かに征喜はそんな面倒なことしないか……」
 と俺は相槌を打ちながら、まじまじとその文字を見ると、なんというかゴツゴツとした男の文字だった。そう言えば征喜の文字はもうちょっと幼いような。じゃあ征喜じゃないのか。
 まあ手紙の差出人は、直接は言いたくなかったということか、と思いつつも、まだ征喜の線は捨てていないけどな。無理して筆跡を変えた可能性もあるし。
 放課後になり、俺と征喜は一緒に校門の外に出た。
 勇者の恰好をしたオジサンは大体、街を歩いている。
 店の中に入っているところは意外と見ない、ような気がする。あんま意識したことないから確実じゃないけども。
 でも征喜にも聞いたら「確かに買い物しているところはあんま見ないね」とのこと。だから商店街のアーケード内の道路だけをまず歩いていたんだけども、何かいる感じじゃない。
 征喜が道行く人に聞いてみると、商店街で勇者の恰好をしたオジサンを今日は誰も目撃していないみたいだ。
 すると征喜が、
「確かにあのオジサンってそもそも商店街では見ないような気がするなぁ、練習場へ行くほうかぁ」
 俺はすかさず、
「練習場って何だよ、商店街をスタジアム、それ以外の場所を練習場とするなよ」
 征喜は声のトーンを崩さず、
「だからあのオジサンって先発ではないんだな、早くベンチに入れればいいねっ」
「だから勝手に商店街をスタジアムにするなよ、人が集まるところイコール・スタジアムじゃぁないんだよ」
 俺と征喜が商店街のアーケードから出ようとすると、多分だけども中学生くらいの人に話し掛けられた。
「えっとぉ、さっき通行人に話し掛けているところが聞こえたんですが、勇者の恰好をしたオジサンをもしかすると探してますか?」
 征喜は元気に、
「はい!」
 と答えた。もうその返事は野球部の一年生なんだよな、と思いながら、
「探しているところ聞かれていましたか、で、何か情報とかあるんですか?」
 と俺が訪ねると、その中学生は、
「え、あ、はい。さっき向こうの荒山地区のほうで見ましたよ」
 俺と征喜はその中学生にお礼を言ってから、荒山地区のほうへ行った。
 荒山地区は民家が点在としている地区で、畑や田んぼが多いところだ。
 溜まり池の時に行ったところで、その元・溜まり池の近くへ行ったところで勇者の恰好をしたオジサンが歩いていたので、すぐさま征喜が挙手しながら話し掛けた。
「勇者のオジサン! 何か変なことしてないっ?」
 いや!
「失礼だろ! 勇者の恰好しているだけ!」
 とツッコんだんだけども、勇者の恰好をしたオジサンは一瞬、ビクンと体を震わせて、表情も何だか焦っているような顔をして、怪しいなとは思ってしまった。
 勇者の恰好をしたオジサンはこう言った。
「何も変なことなんてするわけないじゃないかっ」
 と言いつつ、目が泳いでいる。
 なるほど、つまり勇者の恰好をしたオジサンが本当に変なことしていたところを目撃したから調べてほしいという依頼だったのか。
 勇者の恰好をしたオジサンは続ける。
「そもそも変な恰好をして変なことをしたら目立つじゃないか!」
 征喜はアゴに手を当てて「ふ~む」と息を吐いてから、
「確かにぃ」
 と言ったんだけども、俺はすかさず、
「いやこの荒山地区は緑が豊富でこの地区ではそのローブは保護色になる。勇者の恰好をしたいなら何で兜をしないんですか?」
「兜は作るのが面倒だったんだよ!」
 そう額から汗をだらだら流しながら、そう言った勇者の恰好をしたオジサン。
 俺は矢継ぎ早に、
「それなら、その剣を作るほうが大変ですよね。もしかすると違和感無く、ずっと棒を持っている状況を作りたかったんじゃないんですか?」
「そんなことない! こんな恰好には何の意味も無い!」
 と勇者の恰好をしたオジサンは荒らげるわけだけども、俺は間髪入れず、
「何の意味も無いって、好きなんですよね? 勇者の恰好が」
「そ! そうだ! アニメが好きなんだよ! アニメが!」
 アニメ、勇者の恰好で、アニメか、ゲームじゃないんだ、まあいいや。
「貴方は何のアニメが好きなんですか?」
 そう言いつつ、俺はゆっくり詰め寄る。
 征喜もそれに合わせて、じわじわと近付く。
 勇者の恰好をしたオジサンはバカデカい声で、
「何でもいいじゃないか! 君たちの知らないヤツだよ!」
 すると征喜がこう言った。
「ボク! ヒーロー好きだからそのアニメ教えてくれよ! 緑の恰好したヒーローなんて東京ベルディみたいでカッコイイ!」
 俺は軽くツッコむように、
「いやまあ東京ベルディは緑のユニフォームだけどもさ」
 でもナイス・アシスト、征喜初めてアシスト記録したな、良かった良かった。
 そう、勇者の恰好をするなら憧れの勇者の恰好をするはずだ。
 そもそも緑色のローブなんて特徴的だ。元ネタが無いとおかしい。
 もし無いのならば、本当にただの保護色で、例えば、と思ったところで、勇者の恰好をしたオジサンは踵を返して、逃げ出したのだ。
「ちょっ!」
 俺が声をあげるよりも早く征喜が走り出していた。
 ケガでプロになることを諦めた征喜だけども、人並みの運動はできると言っていた、が、全然速い。
 その速度は一切人並みじゃない。同時にプロの世界ってこれだけ動けてもプロにはなれないんだなと思った。
 征喜はすぐさま勇者の恰好をしたオジサンを捕まえて、剣を奪って天に掲げた。
 いや戦利品じゃぁい! じゃぁないんだよ、それやったらただの山賊なんだよな。
 でも剣を掲げた時に、何か柄の部分が変に見えたので、
「征喜、その柄の部分、動くか? 握れるか?」
 と聞いてみると、征喜は剣を鞘から抜きながら、
「動くし、鞘の中から取り出せた! すげぇ完成度!」
 その剣の剣先は、なんと! マジックハンドのようになっていたのだ! 何かを掴めるような形状というか!
 征喜が柄を握ると、連動するように剣先のマジックハンドがにぎにぎと動く。
 これは……もしかすると、俺は一呼吸置いてから喋り出した。
「貴方、これで果物や野菜を泥棒していましたよね?」
 すると勇者の恰好をしたオジサンはその場で土下座して、
「魔が差したんだ!」
 と言った。
 いや魔が差したってレベルの計画性じゃないだろ。
 征喜は勇者の恰好したオジサンに対して、
「二度としないって約束するか!」
 と怒号を飛ばすと、勇者の恰好したオジサンは涙目になりながら、
「はぁぁああああああああい!」
 と叫んだ。
 俺はこんなオジサンの情けない声がとどろいたら地区が驚いちゃうな、と思いつつ、後ろを振り返ると一瞬人影が見えたような気がした。
 いや誰かに見られてたじゃん、この光景。
 まあ俺が悪いことしていたわけじゃないからいいけどな。
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