ヤノダンゴ探偵のダイレクトプレー集

【07 団子七本目:夏休み(1)、ヤノダンゴ探偵事件】


・【07 団子七本目:夏休み(1)、ヤノダンゴ探偵事件】


 夏休み、まだ涼しいので窓を開けると、俺のほうを向こうの建物の窓からじっと見ている人間がいた。
 征喜だ。
 俺と征喜は隣同士に住んでいる、いわば幼馴染。
 去年までは征喜がサッカークラブに通って、その手伝いを俺や征喜の母親がやっていた。
 何で俺も手伝っていたのかと言うと、単純に征喜がサッカーしているところを見ることが俺も嫌いじゃなかったからだ。暇だし、小学生の初期からやっていたことだったし。
 でも今はもう中学生になって、征喜ももうサッカーを辞めたし、一人の時間を頂きたいところなんだけども、征喜も窓を開けて、こう言ってきた。
「一緒にヤノダンゴ探偵の広報活動行なうぞ!」
 俺は窓を閉めて、カーテンも閉めた。
 いやいや、そんなことはないだろう、そんなことはないだろう、大切なことなので二回考えてしまった。
 いやだって子供の頃とはもう訳が違うわけで。
 サッカーの時とかはほら俺がサッカー見るの嫌じゃなかったし、そもそも小学生の流れでずっと手伝っていたけども、俺はもう中学生だし、征喜もサッカーしていないし。
 おそるおそるカーテンの隙間から征喜の部屋のほうを見ると、征喜はいなくなっていて、胸をホッとなでおろしたその時だった。玄関のチャイムが鳴った。
 嫌な予感はした。
 でもまさか、そんなことは無いだろうと思っていると、征喜のドデカい声が二階までとどろいた。
「キムチ! 早く早く! 試合始まっちゃうぞ!」
 試合なんて始まらないんだよ、オマエはもうケガでサッカーできないんだよ。
 俺は自分の部屋のベッドの上でぶるぶる震えていると、
「キムチママ、サンキュー」
 という謎の台詞と共に、俺の部屋へ向かって足音が聞こえてきた。
 これはあれだ、確実に来ている……完全に侵入している……敵陣深く潜り込むリベロかよ、と思っていると、部屋の扉が開いた。普通に征喜がいた。
「キムチ! ヤノダンゴ探偵の活動しないとみんなに忘れられるぞ!」
「いいよ、ちょっとくらい忘れられたほうがいい活動もあると思うぞ」
 俺はベッドの中に潜り込み、掛布団で顔を隠した。
 もう知らない知らない、関わらない、俺は家でニンテンドースイッチ2をしているんだと思っていると、何か俺の左手に重みを感じた。
 その時だった。
「早く! 早く!」
 俺のベッドは激しく上下に動き出した。
 いや! 征喜が座ってじたばたしてる! しかも俺の左手に座っている! 重くて何か筋肉だろうがゴリゴリする!
「分かったよ! もう行くから下で待ってろ!」
 そう言って俺が掛布団をめくると、満面の笑みの征喜が、
「うん! いつまでも待ってる!」
 と言ってから立ち上がり、そのまま部屋から出て階段を降りて行った。
 何だよあの表情、嬉しそうにし過ぎだろ。じゃあもうしょうがねぇなぁ、幼馴染のよしみだ。
 そんなことを思いながら着替えて歯を磨き、下に降りていくと、征喜が俺のコップで麦茶を飲んでいた。
「キムチママからもらったよ!」
 そう言って俺にコップを見せてきた征喜。
 いやまあコップも洗っているコップだから別に良いけども。
 じゃあ何かその辺歩くのかなと思っていると、征喜がポケットから手紙を取り出して、こう言った。
「今キムチママと話していたらな! ポストに手紙が入っていたんだって! キムチへの! 早速読んでみるね!」
 と言った時に俺は咄嗟に叫んだ。
「ダメだろ! 読んじゃ!」
 征喜はキョトンとしているので、理由を述べることにした。
「いやプライベートなヤツだったらどうするんだよ」
 と言いながら俺は征喜から手紙を奪って、俺が開け始めた。
 すると母親が、
「アンタに告白の手紙なんて来ないわよ。それに征喜くんがいるじゃない」
 と言ったので、俺は「はぁっ?」と声を出してから、
「征喜とは同性だろ! 恋人みたいな言い方をするなよ! 母親が!」
 とちょっと怒るように言うと、母親はウフウフと笑うばかりで、征喜もウフウフと笑うばかりで、何かその連携が腹立つ。
 まあいいや、そんなからかい下手のアホ二発のことは置いといて、さっさと手紙を読むことにした。
 ……! いや!
「これも依頼の手紙かい!」
 そう言って俺は征喜に手紙を渡そうとすると、征喜が嬉しそうに、
「ボクも、見て、いいのかい? 告白じゃなかったかい?」
 と若干イジるように言ってきて腹が立つ。
 まあいいや、それよりも依頼の話だ。
「いいよ! いくらでも見ていいし! ヤノダンゴ探偵案件だよ! というか何で俺に来るんだよ! いっつも!」
 征喜も手紙を読み、今以上にどんどん元気になっていくことが表情を見て分かった。
 読み切ったであろう征喜が拳を突き上げながら、
「じゃあ早速! このアスファルトに土投げられ事件をやっていこう!」
「まあそうだな、こういうの、結構イタズラとして危ないことあるからな」
 と相槌を打つと、征喜がこう言った。
「アスファルトに土が投げられていると何が危ないんだ?」
 この事件はアスファルトに土が投げられているという、今、征喜が言った通りの事件だが、このイタズラはしょうもないけどもすぐに辞めさせないといけない。
 何故なら、
「自動車が何気なく通った時、土にタイヤがとられてスリップすることがあるんだよ。そうだよね、母さん」
 と俺は母さんに言うと、
「まあそういうこともあるよねぇ、量にもよるけどねぇ」
 すると征喜は語気を強めて、
「じゃあすぐ解決しないとダメだね! 行ってこよう! キムチ!」
「まあ行くしかないか」
 俺と征喜はそれが目撃されている荒山地区へ向かって歩き出した。
 現場に着くと、確かにアスファルトに土が撒かれていた。
 既に車が踏んだ跡もある。その跡はちょっと側溝のほうに流れていて、若干スリップしているみたいだ。
 征喜は、
「まずこの土をどかさないとダメだね!」
 と言って、持ってきた手持ちの小さなスコップを使って、取り除き始めた。
 俺と征喜は俺の家から手持ちの小さなスコップを二つ持ってきていた。
 この作業、面倒だなと思いつつも、何かが起きてからじゃ遅いので、やることにした。
 すると征喜が大きな声を出した。
「わぁぁっ! セットプレー時の伏兵だぁ!」
 俺は呆れながら、
「何だよ、選手の陰に隠れていたみたいなの」
 と言うと、征喜は目を丸くしながら、
「ミミズがいた!」
 と言ったのち、感慨深そうに、
「土ねぇー」
 と頷いた。
 土の土たる部分よね、じゃぁないんだよ、全く。
 まあ荒山地区は雑草も多いし、養分が豊富なんだろうなぁ、とか思っていると、俺が削り取った土の中にもミミズがいた。こいつはちょっと干からびている。
 そんなこともあるかと思いながら、俺は干からびたミミズごと地面のあるほうへ投げた。
 さて、
「今回はちゃんと止めないといけないことだから犯人を捕まえないといけないな」
 と俺が言うと征喜が拳を強く握って、
「犯人を見つけたら、チームから追放だ!」
 俺はツッコむように、
「そんなサッカーチームは無いけどな、犯人のいるサッカーチームなんて、雰囲気悪過ぎサッカーチームだな」
 でも俺はなんとなく犯人像は浮かんでいる。
 征喜へ向かって、
「多分子供だろ、こんなことするの」
「何で?」
 と征喜が即座に言ったので、俺は返答する。
「だって意味無さ過ぎるから。こういうイタズラは子供しかしない」
 征喜はう~んと唸ってから、
「そうかなぁ……あんまり可能性を絞ることは良くないと思うけどなぁ」
 久しぶりにまともなこと言っているな、と思っていると、征喜がさらに、
「というかさ! ミミズ多くなかったっ? ボク、キムチに教えていないミミズも見つけたよ! 多分この犯人! ミミズ入りの土をアスファルトに撒いているんだと思う!」
 ミミズ入り、いや確かにミミズ多かったような気がする。
 そう思うとあれもあれも、干からびたミミズだったかもしれない、草の根じゃなくて。
 というか!
「キモ過ぎるだろ! その犯人!」
 と俺はつい声を荒らげてしまった。
 征喜は顎に手を当てながら「ふ~む」と言ってから、
「何らかの見立て殺人かもなぁ」
 と言ったので、
「いやオマエは見立て殺人が好き過ぎる、何の見立てなんだよ」
 征喜は説明するように、
「いや何か土で埋めるみたいな、土埋めスライディングみたいな」
「土埋めスライディングって何だよ、スライディングで地面削って足が埋まったみたいになることはあるけどな」
 と俺がツッコんだ時にある仮定が浮かんだ。
 そうか、分かったぞ、この犯人像が。
「征喜、逆だ。この犯人はミミズ入りの土を投げたんじゃない、ミミズの上に土を乗せたんだ」
「えっ? どういうこと?」
 俺は間髪入れずに喋り出す。
「ほら、夏はアスファルトにミミズが出てくるだろ? それを見て可哀想だと思った子供が土を上から掛けてあげたんじゃないか?」
 すると征喜が、
「それならミミズを持って土のほうに戻してあげたほうがいいじゃないのかな?」
 俺はそれに対してすかさず、
「オマエ、ミミズを素手で持てるか?」
 征喜は俯きがちに、
「それは……ヤノダンゴ探偵をもってしても不可能かもしれない……」
「まあ探偵関係無いしな」
 というわけで犯人像は分かった。
 後は犯人を見つけて説得させるだけ。
 撒かれていた土は比較的新しい、干からびていない、瑞々しさのある土だった。
 つまり今日やったんだろうし、まだあまり時間が経っていないということだ。
 俺は征喜に、
「まだこの近くにいる可能性がある。しらみつぶしに捜索開始だ」
 と声を掛けて、早速周辺を捜索し始めた。
 俺が征喜に伝えたことは、手が土まみれの子供ということ。
 仮にスコップを持っていれば、ミミズをスコップですくうことだってできるはず。
 スコップが汚れることすら嫌と考えるなら、そもそもミミズは助けないだろう。
 得てしてこういう小さな生物を助けようとするのは子供だから、もう子供だけに絞ること、と。
 すると征喜が爪に土が入った子供を見つけたので、話し掛け、その結果、その子供が犯人ということが分かった。
 俺も合流して、アスファルトに土を撒く行動がいかに危ないことか教えると、その子供も納得してくれた。
 これで一件落着かと思いつつ、俺は振り返りながら征喜へ、
「征喜! これで説得完了だ!」
 と話し掛けると、そこには征喜じゃなくて知らない女性が立っていて、ちょっとだけ焦った。
 その女性とは会釈し合った。征喜は何か畦道のほうをしゃがんで見ていた。
 いや!
「俺の説得も聞いていろよ! オマエのヤノダンゴ探偵だぞ!」
 そんな俺の叫び声に征喜はニコッと微笑むだけだった。
 何だよ! それ!
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