好きです、先輩。別れてください
俺の言葉をきいて、星谷先輩はお得意のふわっとした笑みを浮かべる。


でも、それが俺には好戦的な笑顔に見えた。


数秒、無言の時間が続く。




「っ、わかりましたよ」


「そう?よかった」




目を合わせ続けられなかったのは、負けたのは俺。


ただ、俺にだって言いたいことはある。




「幸せにしてあげてくださいよ、今度こそ絶対に」


「言われなくても」


「じゃなきゃ、全力で奪いに行くんで」


「……ははっ、君が奪いに来るのか。それは怖いわ」




俺の言葉におもしろげに笑った先輩の表情は、そのあと一瞬で変わった。


俳優、星谷 楓茉としての顔じゃない。


本物の、1人の人間としての星谷 楓茉が顔を出す。




「まぁ、悲しませる気も、他のやつに渡す気もないけど」


「……言いますね」


「当たり前だよ。何があっても大切にする」




俺は芸能界なんて知らないけど、この人は芸能界でどんな風に過ごしてきたんだろう。


楽しいだけの、眩しいだけの世界ではないはずだ。


そんなときに桜庭さんみたいな、無邪気で優しさをくれる人は、この人の心のよりどころになっていたんだろうな。




「君はこれからも、信用されてる"友だち"としてはんちゃんをよろしくね?」


「先輩だって、今は彼氏じゃないじゃないですか」


「どんな手を使ってでも、振り向かせるから」


「がんばってくださいねー」




棒読みだなぁ、なんて笑ってるけどさ、先輩。


桜庭さんを本当に幸せにできるのはきっとあんたしかいないって、心のどこかで俺は思ってるんだよ。


まぁ、そんなことは、言わないけどね。

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