好きです、先輩。別れてください
「ねこ、ば、くん?」




ぐいっと引かれて、猫葉くんの腕の中。


柔軟剤の控えめな香りが鼻をくすぐる。


落としたメモにはもちろん気が回らない。




「さくらばさんさ、あんま隙とか見せないほうがいいよ」


「猫葉くん、寝ぼけてるんでしょ?ほら、誰かに見られたらまずいよ。離して──」




隙なんてそんなに見せてない。


離してよ、猫葉くん。今のは不意打ちだったせいでしょ。



腕の中から見上げた先には猫葉くんの顔。


寝惚け眼なくせに、そんなに熱っぽい目で見つめてこないで。


ぎゅーって抱きしめる力を強めないでよ。




「桜庭さん、かわいいんだしいつか、襲われ、んよ…」


「……っ、そんな言葉残して寝るとかどんな神経してるの……!」




再びスヤスヤ夢の中。


力が弱まった腕の中から逃げだして、水筒とパーカーを掴み教室から出る。



なにあれ……かわいいって何、襲われるとか何、私には似合わない言葉ばっかりだよ。


いろんな考えを振り切るように、私は走って仁那の待つ教室を目指した。



ガラガラッ、勢いよく開けた扉の先には目を丸くしている仁那がいる。




「絆菜、どした?すっごい顔赤いけど」


「走って、きたから……」


「そんなに急がなくてもよかったのに〜」




違う、顔が赤いのは走ってきたせいじゃない。


少しの距離を走ったくらいじゃそんなに赤くならないよ……



そのあとの楽しいはずのランチタイムも、私はうわの空だった。
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