記憶の欠片
 花火大会当日。

 浴衣に身を包み、慣れない下駄を鳴らしながら待ち合わせ場所へと歩く。

 足元が少し不安定で、つまずかないように気をつけながらも、胸は期待でいっぱいだった。

 夏祭りや花火大会は何度も行ったことがあるけれど、今年は特別だ。

 だって、こうして三湊くんと二人で過ごす時間だから。

 待ち合わせ場所には、すでに三湊くんが立っていた。

 普段の制服姿やラフな格好とは違い、甚平姿がとても似合っている。

 長い髪をきちんとセンター分けに整えていて、いつもより大人びて見える。

 その姿に、私は思わず息を呑む。

 周りの女の子たちもチラチラと彼を見ていて、頬を赤く染めながら小声で囁き合っているのが見える。

 だけど、私はそんなことを気にせず、少し照れながらも笑顔で声をかけた。


「三湊くん、待ってたよ」


「…浴衣似合ってるな。やっぱり夏祭りはこうでないと」


 彼の言葉に少し顔が熱くなる。

 浴衣の柄や帯の色を褒めてくれるのは嬉しいけれど、照れくさくてすぐに目をそらしてしまう。

 周囲の視線や、花火の音が遠くから聞こえてくる中、私たちは並んで歩き出す。

 夜空に広がる花火や屋台の明かり、かすかに香る焼きそばやかき氷の匂いが混ざり合い、祭りの空気を肌で感じる。

 屋台の並ぶ通りに差し掛かると、二人の目は自然ときらめく光や香ばしい匂いに吸い寄せられた。

 金魚すくいの水面に揺れる赤い金魚、型抜きやヨーヨー釣りの色鮮やかな景品が並び、夜風に乗って漂ってくる焼きそばやたこ焼きの香りに、思わずお腹が鳴りそうになる。


「ねぇ、どれから見ようか?」


 三湊くんが声をかける。


「うーん、まずはやっぱりたこ焼きかな」


 私が答えると、彼はにこっと笑う。


「じゃあ一緒に食べよう」


 三湊くんはそう言って、屋台の前に立ち止まる。

 屋台のおじさんが手際よくたこ焼きを返す音、鉄板の熱気が二人の距離をほんの少しだけ近づけた。

 次に射的や輪投げの屋台に目をやる。

 私が的を狙うと、三湊くんはそっと横でアドバイスをくれる。

 「もう少し右だよ、黒瀬」と声をかけられ、言われた通りに輪を投げると、見事に景品に当たる。

 小さくガッツポーズをすると、三湊くんも嬉しそうに笑った。


「あ、かき氷も食べたいな」


 私が言うと、三湊くんは笑って言った。


「俺も」


 その笑顔を見て、私の胸もほんのり温かくなる。

 屋台の光、香り、そして三湊くんの笑顔に包まれながら、二人はゆっくりと花火大会の夜を楽しんでいった。
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