記憶の欠片
 それから、一時間ほど経っただろうか。

 ふと目が覚めると、テントの中は静まり返っていた。

 周りを見渡すと、三湊くんも献くんも明日香ちゃんも、すやすやと眠っている。

 だけど、慧くんの姿が見当たらない。

 心臓が少し早くなる。

 外に出たのだろうか、もしかして何かあったのか。

 そっと体を起こし、テントの入り口に向かって生地をめくると、夜の冷たい空気が顔を撫でる。

 虫の声、木の葉のざわめき、そして遠くで波が砕ける音──そのすべてが、私の胸の高鳴りをより一層強くさせた。

 みんなを起こさないように、そっとテントの入り口を押し開け、足音を立てないように気をつけながら外に出た。

 夜の空気はひんやりとしていて、肌に触れるたびに心地よい冷たさが伝わる。

 白く、ふわふわと光る蛍が一、二匹、静かに舞っている。

 その淡い光が、深い夜の闇の中でまるで小さな星のように揺れていた。

 周りを見渡すと、キャンプ場の景色は漆黒のベールに包まれ、木々の影が柔らかく揺れる。

 耳を澄ませば、夜の音が鮮明に聞こえてくる。

 遠くで波が砂浜を撫でる音、木の葉が風に擦れるささやき、虫たちの夜の合唱、時折聞こえる小鳥の羽ばたきの音──都市では決して感じられない、自然そのものの音色が辺りに溢れている。

 思わず息を呑む。

 なんて静かで、なんて美しいんだろう。

 こんな場所に立っているだけで、心が洗われるような気がした。

 木々の間をゆっくりと歩いていくと、やがて少し開けた場所に出た。

 小さな丘になっていて、周りの木々の陰から視界が広がる。

 夜空が一気に目に飛び込んできて、無数の星がきらめいている。

空気はひんやりとして澄んでいて、肺いっぱいに吸い込むと体の奥まで冷たさが染み渡る。

 遠くで虫たちの声がささやき、かすかに夜風が頬をなでる。

 丘の草の香りと、湿った土の匂いが入り混じり、自然の中に自分が溶け込んでいくような感覚に包まれる。

 私はその場に立ち尽くし、しばらく星空を見上げていた。

 小さな瞬き、明るい星、淡く光る星、数えようとしても数が多すぎて途中で諦めてしまう。

 それでも、一つ一つの輝きに心を奪われ、何分も見とれていた。

 その時、ふと目の端でキラリと光が流れた。

 …流れ星だ。

 ほんの一瞬のことだったけれど、胸が高鳴った。

 願い事をする間もなく過ぎ去ってしまったけれど、その儚くも美しい光景が心に深く刻まれた。

 その一瞬で、胸の奥に封じ込めていた記憶が一気に蘇った。

 まるで流れ星が一筋の光で暗闇を切り裂くように、忘れていたあの日の夜が鮮明に浮かび上がる。
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