記憶の欠片
 記憶が、ゆっくりと繋がっていく。

 今まで理解できなかった、理由の分からなかった胸のドキドキも、息が苦しくなるような、あの感覚も。

 ——全部。

 図書室のバルコニーで、並んで風に当たったあの時間。

 何でもない会話なのに、心だけが落ち着かなかった理由。

 文化祭のお化け屋敷で、暗闇の中に現れた彼に触れられた瞬間、恐怖より先に胸が跳ね上がったこと。

 遠くにいても、ただ彼の姿を見つけるだけで鼓動が速くなってしまう理由。

 そして——

 他の誰にも取られたくない、という抑えきれない独占欲。

 明日香ちゃんと慧くんが話しているのを見たとき、胸の奥がきりりと痛んだ、あの感覚。

 全部、全部。

 恋だったんだ。

 あの雨の日、傘の下で始まった恋。

 忘れてしまっていただけで、なくなってなんていなかった。

 私は、また——

 彼に、恋をしてしまった。

 同じ人に、二度目の恋を。

 でもそれは、初めてと同じくらい切なくて、苦しくて、どうしようもなく愛おしい。

 思い出してしまった以上、もう知らなかったふりはできない。

 胸の奥で、確かに灯ったこの気持ちを抱えたまま。

 私はもう一度月城慧くんを想ってしまったんだ。
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