記憶の欠片

辛い時は


 部屋は静まり返っていた。

 エアコンの小さな音と、壁掛け時計の針の音だけがやけに大きくて、振られた、という事実を何度も突きつけてくる。

 ベッドの上で膝を抱え、スマホを握りしめる。

 迷った末に、明日香ちゃんの名前をタップした。

 ——プルルル。

 コール音が途切れて、すぐに電話が繋がる。


「……明日香、ちゃん……」


 それだけで、もうダメだった。

 明日香ちゃんの声が聞こえた瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出す。

 本当は、ずっと我慢してた。

 告白した勇気も、断られた瞬間の衝撃も、全部胸の奥に押し込めてた。


「……振られちゃった……」


 自分の声が震えているのが分かる。


《えっ?》


 一瞬の間のあと、驚いた声が返ってくる。


《慧に、振られた……?!》


 その一言で、また涙が溢れた。

 言葉にならなくて、ただ嗚咽だけが漏れる。

 それからしばらく、明日香ちゃんは何も聞かずに、ずっと話しかけてくれた。


「愛梨ちゃんは悪くないよ」


「ちゃんと想いを伝えられたの、すごいよ」


 優しい言葉を、何度も、何度も。

 私が泣き止むまで、電話は切れなかった。


「……ごめん、遅くにありがとう」


 声が少し落ち着いた頃、そう言うと、


《何かあったら、すぐ言ってね》


 その言葉に、また胸がいっぱいになる。

 通話が終わり、画面が暗くなる。

 そのままスマホを胸に抱いたまま、私はいつの間にか眠ってしまっていた。

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