敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 ザシュッ――

「ぎゃあああああああああ!!」

 断末魔の叫びが、部屋を揺らした。
 床に、切り落とされた腕が転がった。
 鮮やかな赤が、床へと広がっていく。

 ユリアは、何が起こったのか理解できず、ただ目を見開いたまま立ち尽くしていた。

「腕が……! 腕が……!!」

 フレドリックは絶叫しながら床を転げ回る。

「……他は?」

 先王の声は、驚くほど冷静だった。

「どこが壊死し始めている」

 その言葉を聞いた瞬間、
 ユリアの背筋を、凍りつくような寒気が走った。
 
 ――ああ……。
 違う。
 
 この人は、息子を救おうとしているのではない。

「……お前が、私の息子に毒を飲ませたから、こうなっているのだぞ?」

 先王は、苛立ち混じりにユリアを見た。

「私はフレドリックに死なれては困る。子が作れなくなるだろう?」
 
 淡々とした声音。

「だから、壊死が広がらぬよう切り落とした。それだけだ」

 ユリアは、言葉を失った。

 ――この人にとって、
 命は価値ではない。
 ただの機能だ。

「……足も、か」

 先王の視線が、フレドリックの下半身へ落ちる。

 その一言で十分だった。
 これ以上、見てはならない。
 
「性器さえ機能すれば……」

 その言葉が、静かに告げられた瞬間、ユリアは思わず目を伏せた。
 
 もう、叫びは聞かなかった。
 血の匂いだけが、静かに部屋に満ちていった。
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