たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
「ん?なんだ?」
「拓真はさ、月が綺麗ですねって、言葉の意味知ってる?」
「ああ、愛してる。だ」

返事は、すぐ返ってきた。

(やっぱ、そうだよね……)

あまりにも、自分の思った通りで。
ふふっ、と笑いすら込み上げてきた。

落ち込んだり、笑ったり。
もう、情緒がおかしい。

「それが、どうした?」

だから、拓真の声にも、ちょっとだけ戸惑いを感じる。

「いや、私はさ。あんな風になりたいなって。それしか思えなくて。もう恋とか、愛とかさ。そんな発想すら、出てこないんだよ」
「良いんじゃないか?それがお前なんだから」

またすぐ、返事が返ってきた。
私は、初めて拓真を見た。

拓真も、柵に腕を置いて、水面の一箇所だけを、じーっと見つめていた。

今日も横顔しか見えない。
相変わらず動きのない横顔だ。

でも、私はただ、その横顔を見て、ずっと固まっていた。

戸惑っている、すごく。

だって、散々否定していた「自分」を、認めてもらったんだから。

「自分より他のやつを優先しすぎる。だから、考えなくてもいいことまで、ムリをして考える。お前は変わりたいと思ってるのかもしれないが、俺はそういうとこに惹かれてるし、そういうお前を尊敬してる」

私は、やっぱり、受け取るしかできなかった。
否定も肯定も、できなかった。

だって、自分ではどうやったって、そう思えないから。

ただ、拓真の言葉が、わたしを変えたってことは、確かだ。

だって、落ち込むだけじゃないから。
少しだけホッとしたような。
でも、まだ全然戸惑っているような。

すると、拓真が、くるっと身体の向きを変えた。

私を見た瞬間、目を丸くした。
でも、すぐ、クスッと笑った。

笑いながら、手を伸ばす。
顔に手が近づいてくる。
目に指が入りそう。

私は、思わず目を瞑った。

髪だった。
散らばった髪を、手で梳かしてくれている。
スーッと指が通る。
何度も、何度も。

「そういうやつだって、知ってるから。いつか、壊れちまうんじゃないかって、不安にもなる」

そこには、優しさと、心配があった。

子供の頃に戻ったような。
誰かに、思われてるって感じるような。

すごく嬉しいのに、やっぱり、素直には受け取れない。

とにかく、はっきりとは、見れない。
だから、私は、うっすらとだけ、目を開けていた。

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