たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
髪から、拓真を感じなくなった。
もう、こっちも見ていない。
前だけを見ている。
「なあ。月、見えるか?」
「月?」
私も、前を向いた。
夜空を見上げて、丸々とした月明かりを探そうとした。
「違う。こっちだ」
「えっ?」
もう一度、隣を見た。
その人は、首を下げて、ゆらゆらと揺れる水面を、じーっと見ていた。
「月だって、そんなずっと高い場所で、光ってられるわけじゃない」
だから私も、もう一度、池に浮かぶ月を見た。
「……ほんとだ」
本物を見た後だからだろうか。
水面に浮かぶ月の光が、なんだか、とても弱々しく見えた。まるで、今の自分みたいに。
「鈴子」
「んー?」
「こうやって、お前が落っこちそうな時。今度は、俺が受け止めてやりたいだ」
私は、また振り向いた。
やけに、真剣な声だった。
横顔もそう。
力強い目で、一点だけを見つめていた。
私は、逆だ。
すごく、弱くなった。
未来を見てしまったせいで。
だから今も二人の自分がずっとぶつかっている。
でも、どうやっても、一人しか選べなくて。
どうしたらいいのか、ますますわからなくなった。
視線はどんどん落ちる。
もう横顔すら見れない。
気づけば、そんな気持ちも、全部、言葉にしてしまっていた。
「私………ここんとこ、ずっと、頭がごちゃごちゃしてて………もう、よくわかんなくて………」
息もだんだん上がってきて、声まで震えてしまう。目の奥からぶわーっと涙が溢れ、視界が滲む。とめどなく、ポロポロ、頬に流れる。
私は、涙でぐちゃぐちゃになる顔を、手のひらで隠した。それでも、涙は止まらない。
「……あのときは、簡単に、好きって気持ちだけで、走り出せたのに……でも……今は、それ以外にも、もっと……」
拓真の手のひらを、左頬から感じた。
どっちも冷たい。身体が震えた。
言葉も、止まった。
今はもう、泣き声だけが残る。
「そんなの当然だろ。お前にも背負うもんがあることくらい、わかってる」
自分でも、どうしたいのか、わからない。
だから、この気持ちを、上手く言葉にできない。
「……そ、そうなんだけど」
また、すぐ言葉が止まる。
ひっく、ひっく、と引き攣る呼吸しかできない。
手で隠れて、何も見えない。
でも、ザラッと、地面を擦る音がした。
拓真が、動いた気がした。
左頬から、手のひらが離れた。
すぐ、背中に、同じものを感じた。
そのまま、力をかけられ、私の身体はよろめく。
額にぽすっと、何かが当たった。
拓真の広い肩だ。
こんなにも肌を突き刺す風は冷たいのに。
顔も指もすっかり冷え切っているのに。
ここだけは、あったかい。
私の頭は、背中は、拓真のたくましい腕に、すっぽり収まる。
このとき、私は確かに一人じゃなかった。
二つの腕に、ギュッと力をかけられると、手で隠した顔は、拓真の肩に埋まった。
何も見えない。
何も喋れない。
ただ、こもった泣き声を出す。
ただ、その肩を新しい涙で濡らす。
しばらく、ずっとそのままだった。
今は、何も言わなくていい。
何も見なくていい。
そう言われているみたいだった。
もう、こっちも見ていない。
前だけを見ている。
「なあ。月、見えるか?」
「月?」
私も、前を向いた。
夜空を見上げて、丸々とした月明かりを探そうとした。
「違う。こっちだ」
「えっ?」
もう一度、隣を見た。
その人は、首を下げて、ゆらゆらと揺れる水面を、じーっと見ていた。
「月だって、そんなずっと高い場所で、光ってられるわけじゃない」
だから私も、もう一度、池に浮かぶ月を見た。
「……ほんとだ」
本物を見た後だからだろうか。
水面に浮かぶ月の光が、なんだか、とても弱々しく見えた。まるで、今の自分みたいに。
「鈴子」
「んー?」
「こうやって、お前が落っこちそうな時。今度は、俺が受け止めてやりたいだ」
私は、また振り向いた。
やけに、真剣な声だった。
横顔もそう。
力強い目で、一点だけを見つめていた。
私は、逆だ。
すごく、弱くなった。
未来を見てしまったせいで。
だから今も二人の自分がずっとぶつかっている。
でも、どうやっても、一人しか選べなくて。
どうしたらいいのか、ますますわからなくなった。
視線はどんどん落ちる。
もう横顔すら見れない。
気づけば、そんな気持ちも、全部、言葉にしてしまっていた。
「私………ここんとこ、ずっと、頭がごちゃごちゃしてて………もう、よくわかんなくて………」
息もだんだん上がってきて、声まで震えてしまう。目の奥からぶわーっと涙が溢れ、視界が滲む。とめどなく、ポロポロ、頬に流れる。
私は、涙でぐちゃぐちゃになる顔を、手のひらで隠した。それでも、涙は止まらない。
「……あのときは、簡単に、好きって気持ちだけで、走り出せたのに……でも……今は、それ以外にも、もっと……」
拓真の手のひらを、左頬から感じた。
どっちも冷たい。身体が震えた。
言葉も、止まった。
今はもう、泣き声だけが残る。
「そんなの当然だろ。お前にも背負うもんがあることくらい、わかってる」
自分でも、どうしたいのか、わからない。
だから、この気持ちを、上手く言葉にできない。
「……そ、そうなんだけど」
また、すぐ言葉が止まる。
ひっく、ひっく、と引き攣る呼吸しかできない。
手で隠れて、何も見えない。
でも、ザラッと、地面を擦る音がした。
拓真が、動いた気がした。
左頬から、手のひらが離れた。
すぐ、背中に、同じものを感じた。
そのまま、力をかけられ、私の身体はよろめく。
額にぽすっと、何かが当たった。
拓真の広い肩だ。
こんなにも肌を突き刺す風は冷たいのに。
顔も指もすっかり冷え切っているのに。
ここだけは、あったかい。
私の頭は、背中は、拓真のたくましい腕に、すっぽり収まる。
このとき、私は確かに一人じゃなかった。
二つの腕に、ギュッと力をかけられると、手で隠した顔は、拓真の肩に埋まった。
何も見えない。
何も喋れない。
ただ、こもった泣き声を出す。
ただ、その肩を新しい涙で濡らす。
しばらく、ずっとそのままだった。
今は、何も言わなくていい。
何も見なくていい。
そう言われているみたいだった。