たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
それまで訳もわからずスッキリとしなかった、心の霧がパッと晴れるように、私は何の後腐れもなく、「小濱堂」の娘に戻った。
店先から少し奥へと進んだところに、小濱家の生活スペースがあるが、「小濱堂」との明確な線引きはない。
「母さん、おはよう~」
私は眠い目を擦りながら、寝巻きの姿のまま、母さんが先に立つ台所に加勢していく。
そして食卓に、出来上がった朝食を並べ終えると、父さんを焼き場まで呼びに行き、揃って朝食を取る。
「これ。拓真じゃないか?」
テレビを真剣に見ていた父さんが、拓真の顔を指差した。
"連絡するから…連絡するから…''
私も口までヒョイヒョイと進めていた箸を置いて、テレビを食い入るように見つめる。
朝のテレビには、今日も拓真が映る。そんな拓真の姿にさえ、今まで以上に敏感に反応するようになっていた。
「お父さん、ダメよ。鈴子はPUPU派なんだから~。ほら、変えましょう、変えましょう」
「そうなのか?ったく、仕方ないな……」
(ああ。前になんか、そんなこと言ったかも…)
私はリモコンへと向かう母の手に、がしりと渾身の力で掴みにかかり、無理やりにも同意を引き出そうとした。
「このアナウンサーの人!カッコいいよね?ね?」
「あら、そう?お母さんは、ずっとお父さん一筋よ?」
「母さん。もーう、照れるじゃないか」
(ふぅ~。危機一髪だぜ)
"連絡するから…連絡するから…''
こうして今日も拓真の言葉を頭に残しながら、私の慌ただしい一日は始まる。
朝食を終えると、父さんがまだ暗いうちから仕込んだ生地と餡の甘い匂いが広がる「小濱堂」へ向かい、また母さんに加勢するように、掃き掃除で店先から店内まで目に見える汚れをすべてなくす。
そして掃除を終えそうなタイミングで、父さんが焼き場に再び戻り、使い込まれた銅板にじっくり時間をかけて熱を浸透させていく。
下町に人の流れが生まれるのは、朝の9時。
父さんと代わる代わる、私たちもその時間に間に合うようにチラチラと時計を見ながら、肌に薄く血色を与えたあと、Tシャツとジーパンに着替え、髪を一つにサッと束ねる。
そして、気合を入れるようにエプロンの紐をキュッと締め、のぼり旗を一度上げてしまえば、もう目の前の出来事しか見ることを許されない。
店前で足を止めたお客さんに威勢よく声をかけ、父さんの焼いた美味しいたい焼きを極力時間をかけずに提供する。
それが私の役目であり、小濱家の日常だからだ。
のぼり旗を下げ、夕飯を食べ、家族の話し声や笑い声が私を満たしているときまでは、まだ大丈夫だった。
でも部屋でいざ一人になると、もう頭の中には本当に"連絡するから…連絡するから…''しか残らなくなる。
(拓真って、店の電話知ってたっけ?さすがに忙しい拓真が、そんなマメなことする?いやいや、ないない……)
「プルルルル、プルルルル」
(本当に電話鳴ってるじゃん……!)
私はだらしなく伸びていた身体を飛び起こして、全速力でその音が鳴る方へ駆け出す。
すると目の前では、一番恐れていた事態が発生していた。
あろうことか私より先に、父さんが受話器に手をかけようとしていたのだ。
(もし電話の相手が拓真だと、父さんに知られたら?それはまずい、まずすぎる!)
「どいてーー!!」
私は町一帯に響き渡るくらいの、馬鹿でかい声を張り上げ、父さんに体当たりしながら受話器を奪い取る。
「……何?鈴子に電話なの?…なら、そう言ってよ……いたたた……」
打ちどころをかばいながら捌けていく父さんを、私はとても心苦しい気持ちで見送る。
(父さん、ごめんよ。でも、私はやっと気づけたこの恋を絶対に守らなくちゃいけないんだー!)
手に持つ受話器から、小さく、それでもすぐにはっきりと分かる拓真の声が聞こえてくる。
「……もしもし?」
その声がまだ夢にみたいに信じられなくて、上がった息も整っていないのに、飛びつくように受話器を耳にきつく押し当てた。
「鈴子?俺、拓真」
「拓真!?」
(……やっぱり、拓真だ!約束、本当に守ってくれたんだ!)
「連絡するって、言ったろ?」
店先から少し奥へと進んだところに、小濱家の生活スペースがあるが、「小濱堂」との明確な線引きはない。
「母さん、おはよう~」
私は眠い目を擦りながら、寝巻きの姿のまま、母さんが先に立つ台所に加勢していく。
そして食卓に、出来上がった朝食を並べ終えると、父さんを焼き場まで呼びに行き、揃って朝食を取る。
「これ。拓真じゃないか?」
テレビを真剣に見ていた父さんが、拓真の顔を指差した。
"連絡するから…連絡するから…''
私も口までヒョイヒョイと進めていた箸を置いて、テレビを食い入るように見つめる。
朝のテレビには、今日も拓真が映る。そんな拓真の姿にさえ、今まで以上に敏感に反応するようになっていた。
「お父さん、ダメよ。鈴子はPUPU派なんだから~。ほら、変えましょう、変えましょう」
「そうなのか?ったく、仕方ないな……」
(ああ。前になんか、そんなこと言ったかも…)
私はリモコンへと向かう母の手に、がしりと渾身の力で掴みにかかり、無理やりにも同意を引き出そうとした。
「このアナウンサーの人!カッコいいよね?ね?」
「あら、そう?お母さんは、ずっとお父さん一筋よ?」
「母さん。もーう、照れるじゃないか」
(ふぅ~。危機一髪だぜ)
"連絡するから…連絡するから…''
こうして今日も拓真の言葉を頭に残しながら、私の慌ただしい一日は始まる。
朝食を終えると、父さんがまだ暗いうちから仕込んだ生地と餡の甘い匂いが広がる「小濱堂」へ向かい、また母さんに加勢するように、掃き掃除で店先から店内まで目に見える汚れをすべてなくす。
そして掃除を終えそうなタイミングで、父さんが焼き場に再び戻り、使い込まれた銅板にじっくり時間をかけて熱を浸透させていく。
下町に人の流れが生まれるのは、朝の9時。
父さんと代わる代わる、私たちもその時間に間に合うようにチラチラと時計を見ながら、肌に薄く血色を与えたあと、Tシャツとジーパンに着替え、髪を一つにサッと束ねる。
そして、気合を入れるようにエプロンの紐をキュッと締め、のぼり旗を一度上げてしまえば、もう目の前の出来事しか見ることを許されない。
店前で足を止めたお客さんに威勢よく声をかけ、父さんの焼いた美味しいたい焼きを極力時間をかけずに提供する。
それが私の役目であり、小濱家の日常だからだ。
のぼり旗を下げ、夕飯を食べ、家族の話し声や笑い声が私を満たしているときまでは、まだ大丈夫だった。
でも部屋でいざ一人になると、もう頭の中には本当に"連絡するから…連絡するから…''しか残らなくなる。
(拓真って、店の電話知ってたっけ?さすがに忙しい拓真が、そんなマメなことする?いやいや、ないない……)
「プルルルル、プルルルル」
(本当に電話鳴ってるじゃん……!)
私はだらしなく伸びていた身体を飛び起こして、全速力でその音が鳴る方へ駆け出す。
すると目の前では、一番恐れていた事態が発生していた。
あろうことか私より先に、父さんが受話器に手をかけようとしていたのだ。
(もし電話の相手が拓真だと、父さんに知られたら?それはまずい、まずすぎる!)
「どいてーー!!」
私は町一帯に響き渡るくらいの、馬鹿でかい声を張り上げ、父さんに体当たりしながら受話器を奪い取る。
「……何?鈴子に電話なの?…なら、そう言ってよ……いたたた……」
打ちどころをかばいながら捌けていく父さんを、私はとても心苦しい気持ちで見送る。
(父さん、ごめんよ。でも、私はやっと気づけたこの恋を絶対に守らなくちゃいけないんだー!)
手に持つ受話器から、小さく、それでもすぐにはっきりと分かる拓真の声が聞こえてくる。
「……もしもし?」
その声がまだ夢にみたいに信じられなくて、上がった息も整っていないのに、飛びつくように受話器を耳にきつく押し当てた。
「鈴子?俺、拓真」
「拓真!?」
(……やっぱり、拓真だ!約束、本当に守ってくれたんだ!)
「連絡するって、言ったろ?」