たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
でも、なぜか電話機の表示には「コウシュウデンワ」と書かれている。

私はその違和感を、やんわりとぶつけた。

「これ、公衆電話って……?」
「ああ………」

受話器の向こうから聞こえていた声が途切れ、強くなる夜の静けさに、鼓動がザワザワと騒ぎ出す。

(あれ?……聞いたの、まずかったかな?踏み込みすぎた?)

「そのー、俺、寮暮らしだからさ?ちょっと、自由に連絡取りづらくて……今も、別の電話から話してるんだよね…はははっ……言っとけばよかったよな。ごめん。俺、かなり浮かれてたっぽい……はははっ……」

それは、確かに拓真の笑い声なのだけれど、無邪気にあそんでいた頃とは違う、どこか無理をしているように聞こえた。

(私、バカだ。拓真に事情があるのなんて分かってるのに、勝手にヤキモキして……)

「ううん。ありがとね。約束、守ってくれて」
「鈴子の声、聞けて良かった。これで今日は寝れそうだよ」

(今日は、って……)

「……あんまり、寝れてないの?」
「んー、まあーね。でも、自分で選んでることだから。これくらいは我慢しないと」

「……寝れない時のおまじない、教えてあげよっか?」

ずっと明るさを装ってみせるけれど、また一人になるとあの夜みたいに、誰の前でも絶対に見せない背中になるのかも知れない。

そのとき、一人じゃないよ。と思ってもられるように、せめて何か残したかった。

(いや、でもこれって、結構子供っぽい?私にしか効かないやつだったら?そんなの……恥ずかしすぎる!!)

まだ大人になりきれていない自分を必死に隠すように、その言葉を急いで取り消した。

「いや、やっぱ良いや」
「なんで?聞かせてよ?」

「………笑わない?」
「うん。笑わない」

「……じゃあ、目、閉じて」
「目?閉じれば良いの?」

「そう。閉じた?」
「閉じてる、閉じてる」

「そしたら、心の中のモヤモヤを全部外に出しちゃうみたいに、思いっきり、フーって、息を吐くの」

私も言葉通りの動きを一緒になって繰り返した。

(……って、なんか心臓がうるさい!……やっぱ、効果ないのかも!?)

耳にかかる拓真の強い吐息は、まるでそばにいると勘違いしてしまいそうなくらい、私の身体を熱くした。

普段は落ち着くはずなのに、今日はますます心臓が速く動くし、どこからともなく、熱がせりあがってくるような感じもする。

私は急に自信がなくなって、笑い飛ばしながらその訳の分からない、ざわめきから逃げようとした。

「で、できた?まあ、ぜんぶ、母さんの受け売りなんだけどね!はははっ!」

「落ち着いたのは、鈴子の方だったりして……?」
「えっ?なんで?」

「さっきまで、息、上がってたから」

拓真は子供の頃の面影を残しながら、またあの時みたいにからかってくる。今の私は、こんなにも心臓が暴れているのに……受話器越しでは、どうやっても拓真には届かない。

(さすがに、心臓の音までは聞こえてないか……)

「嬉しかったよ。走ってきてくれたんだ、って」

バクバクと小刻みに動き続けていた心臓が、その言葉に突然大きく跳ね上がる。

(うっ、胸が、苦しい。何?何これ?)

苦しいはずなのに、不思議と痛くも辛くもない、初めて感じた幸せな苦しみに、頭の理解は一向に追いつかない。

そのうち受話器のそばの、さらに向こうから、拓真を呼ぶ声がうっすらと聞こえてきた。

(ん?誰だろう?マネージャーさんかな?)

「やば、ちょっと呼ばれてるみたいだ。また絶対、連絡するから!」

まるで終わりを予告するみたいに、しっかり聞こえていた拓真の声は、ヒソヒソとした小さなものに変わる。

(どうしよ!電話切れちゃう!何か、何か、私も言葉にして伝えないと)

「う、うん!……あっ、拓真!」

「何?」

とにかく呼び止めてみたけれど、今の自分の気持ちに見合った言葉が、なかなか出てこない。

(私、何してるの!早く何か言いなさいよ!)

「……えーっと、またね!」

(ああー…またね、って……そんなありきたりな)

「……ははっ……うん!また……!」

悔いる私の心を宥めるみたいに、拓真は最後の最後に、昔みたいに思いっきり笑ってくれた。

(拓真が……笑った……ナイスッ!私!よくやった!)

拓真の笑い声一つで、私の気分はたやすく最高潮に達する。

もう声のしない受話器を耳に当てたまま、やり場のない感情を持て余すように、顔をクシャクシャにほころばせながら、小さくガッツポーズをした。
< 12 / 49 >

この作品をシェア

pagetop