たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
いくら待っても、二人は動かない。

すると、ザクッ、と砂を踏む音が、隣のテントから。

助監督だ。
助監督が、外に出ようとした。

そのとき。
小仁監督が、引き留めた。

「いや。待て、あれを見ろ」

平次が、しゃがみこんだ。
与助を、抱き上げた。

また、立ち上がった。

その子は、大波に背を向ける。
平次の首に、腕を回して。
広い肩に、顔を埋めて。

平次は、水平線を見つめたまま。
ふっ、と口角を上げる。

微笑んだまま。
また、歩き出す。

足が水に浸かる。

大きな波を、身体にかぶる。
それでも、進む。

腰も。
背中も。

どんどん、身体が消えていく。

監督のOKは、まだ出ない。

もう、見えるのは、頭だけ。

そのとき。

監督が、口元に手を当てて、叫んだ。

「……よしっ!!良いぞ!!早く引き上げろ!!」

ドタドタと、いくつもの足音が。
スタッフさんたちが、二人に向かって、走り出した。

私も、もう目の前の、大波しか見れない。
二人がどこにいるかもわからない。

心配で心配でたまらない。

スタッフさんが、水に足を入れようとした……

そのとき。

「エホッ、エホッ……」

激しく咳き込む音が聞こえてくる。

波の中から、人が出てきた。

拓真だ。
腕の中には、ちゃんと湊もいる。

全身すぶ濡れ。

でも、最後まで、誰も近寄らせない。

止まらない。
歩き続ける。

そうやって、砂浜まで上がってきた。

しゃがみこんだ。
湊を腕から下ろした。

拓真は、バタンと、仰向けに倒れた。

「大丈夫ですか?」

スタッフさんたちは、心配の声をかけながら、
駆け寄っていく。

湊の髪を拭く人。
拓真にバスタオルを渡す人。

「ああ……ありがとう……」

拓真は、ちゃんと相手の顔を見て、バスタオルを受け取った。
息を切らしながら、そう言った。

でも、拓真の腕は、すぐ落ちた。
また、空を仰いだ。

胸を大きく動かしながら、足りなくなった空気を、何度も吸い込む。
顔も思いっきり歪んでる。

湊は、頭にタオルを乗せながら、ずっと拓真を、心配そうに見つめていた。

拓真も、気づいたみたいだ。

湊と目を合わせる。

その顔から、苦しみがスッと消えていた。
ニコッと、笑っていた。

湊の頭をぐしゃぐしゃと片手で撫で回した。

「な?できたろ?……」

ここにいる全員が、涙ぐみながら、でも笑顔で、拍手を送っている。

私も、もちろん。

でも、笑えはしなかった。
まだ、苦しかった。

そんな二人を見れば見るほど、自分のしてきたことが、あまりにも的外れなものであったと、見せつけられているみたいだったから。

(一緒なら怖くない……って……あんなに教えてくれたのに、何で、あんなこと言っちゃったんだろう……後悔したって、もう遅いのに……)

< 116 / 157 >

この作品をシェア

pagetop