たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
拓真は、スマホを離した。
私に、差し出した。

拓真の手を見た。

スマホを受け取る。
自分の耳にくっつける。

湊の声が聞こえてきた。

「ねえさん?宝物は?見つかった?」

余程、気になっていたのか。
走るように、こう聞かれた。

(そうだ!宝物……!)

私は、ようやく思い出した。

あまりに、いろんなことがありすぎて。
完全に、どっかに飛んで行っていた。

でも、もう思い出しても、焦りはしない。

自然に、笑えていた。
生き生きとした声で、こう伝えていた。

「うん。ちゃんと見つけたよ」
「……ああ、良かったぁ」

湊の声から、力が抜けた。
ホッと胸を撫で下ろしたみたいに。

本当に良かった。
湊がいなきゃ、私は本当に宝物を落としてしまうところだったんだから。

湊への感謝で胸がいっぱいになった。
心のままに、こう伝えていた。

「湊」
「ん?どうしたの?」
「うちにきてくれて、ありがとね」

でも、今日の湊はちょっぴり冷めていた。

「……ねえさん。僕がいなくて、寂しいの?」
「えっ?」

湊は、この期間で、またうんと大人になった。
遠くへ行ってしまうことに、これまでの私なら少なからず落ち込む気持ちもあっただろう。

「あはは。そうかもな〜」

でも、私はそれが微笑ましくって、ふわっと笑っていた。

「僕は、へっちゃらだよ?宇佐見さんも、一緒だから」
「おおっ、頼もしいね〜」

だって、私には、私の帰る場所がちゃんとあるから。

「じゃあ、また明日ね〜」
「はーい。おやすみなさーい」

ぷつりと、声が消えた。

もう、ツーツー音だけが残る。

でも、私はまだ口角を上げたまま。

「ぼう、なんだって?」

隣から、声がした。
パッと振り向いた。

拓真がいる。

「んー?私いなくても、もう大丈夫なんだって。ほんと、大きくなったなあ」

私は、耳からスマホを離した。
スマホを拓真に差し出した。

「そうか、そうか」

拓真も、クスッと笑いながら。
スマホを受け取った。

ポケットに入れた。

スマホの明かりがなくなった。
部屋はまた真っ暗になる。

こつん、こつんと、足音が聞こえる。
拓真が、遠ざかっていくのが分かる。

「ガチャっ」

ドアハンドルを下げた。

「ギーー」

ドアが開いていく。

外の光が入ってくる。

眩しくて、目を背けてしまう。

また、前を向いたとき。

拓真は、振り向いた。
メガネをかけていた。

「じゃあ。もう一泊頼んでくるから。お前も、早く戻れ」

拓真は、また背を向けた。
ドアハンドルから、手を離そうとした。

でも、その背中が私を動かしていた。

もう、あの頃みたいに、私が何かする必要なんてひとつもなかったから。
その広い背中に最初から、最後まで頼りっぱなしだったから。

私は、駆け出していた。
拓真の手を掴んだ。

「拓真!!」
「ん?」

拓真は、止まった。
振り向いた。

顔を見せた。

私は、くしゃりと笑いかけながら、こう言った。

「今度こそ、最後まで離れないでいようね」

拓真は、一瞬、目を丸くした。

でも、すぐにくしゃりと笑った。
うんうんと、何度も頷いてくれた。

「ああ。また、部屋戻ったら電話しろよ」

拓真の手が、離れた。

でも、私はもう俯かない。
離れた手に、悲しげな目をつくらせない。

しっかり顔を上げて、にっこり笑いながら。
遠ざかる背中を見つめていた。


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