たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
「ほんっと、あんな大根役者だったのに。あんたもなかなか腕を上げたわね」
「……えっ?」

(それだけ?)

私は、思わず、心の声を漏らした。

驚いた。
なぜか、宇佐見さんは優しかったから。
今までで、一番。

そして、それ以上、何も言わなかったから。

でも、どれだけ宇佐見さんが優しくったって、私にできることは変わらない。

謝罪しないと。

だから、すぐ、スマホを自分で持った。
とにかく謝っていた。

「いや、あのっ、すみません……決して、ご迷惑だけは、おかけしないように」
「何言ってんの。こっちの都合に付き合って、我慢してくれてたわけでしょう?あんたが謝ることなんて何もないでしょうが」

返ってくる声は、どれも、うんと厳しくて、うんと優しい。

だから、私の心は余計に収まらない。

責められるようなことをしている。
その自覚がちゃんとあるから。

「いや、でも……」
「全て終わったら、思う存分、出来なかったことを二人でやりなさい。わかったわね?」

宇佐見さんは絶対に責めない。
何を言ってもそう。

だから、もう何も言えなくなった。

「……はい。ありがとうございます」

私の耳から、スマホが離れた。

拓真がまた、自分の耳にスマホを当てる。
横顔がなんだかさっきと違う。
キリッと引き締まって見えた。

「拓真」

宇佐見さんの声もそう。
優しさはない。厳しさだけ。

「なんだ?」
「今が勝負だからね。公開まで、半年。ここで足元掬われようもんなら」

今度は、拓真が言葉を被せた。

「ああ。言われなくても、分かってる。作品が落ち着くまで、人前には絶対出ないし、帰りも別の列車で帰ってくる」

すると、宇佐見さんはまた、はぁ……と、ため息をついた。

でも、もう落胆のため息じゃない。

拓真が、あまりにも徹底してるから。もう何も言えないわって、我を折るようなため息だ。

「まあ、二人のことだから、心配はいらなんでしょうけど」

でも、やっぱり、まだまだ気になることは多いらしい。最後に、こう強く付け加えた。

「とにかく、明日は、洗いざらい吐いてもらうからね!」

拓真は、苦々しく笑っていた。

「ああ、お手柔らかに頼むよ」

でも、確かに拓真は笑ってた。

そのまま、通話が終わる。
かと思いきや……

「あっ、そうだ。ちょっと、鈴子に変わってくれないかしら」
「……ん?ああ」

(えっ……もう一回?)



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