たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
「ガラガラ」

店の引き戸を引く。

甘い匂い。
香ばしい匂い。

店の奥に進む。

朝から賑やかだ。

テレビの音が聞こえる。
二人の話し声が聞こえる。

帰ってきたって、感じがする。

だから、いつものように、明るく。

「ただい……」

私は、すぐ固まった。

食卓には、湊と父さん。
もう、朝食を食べている。
私が、用意しなくても。

「あっ!ねえさん!おかえりなさい!」

湊が、振り返る。

良かった。
何も変わりなさそうだ。

「……うんっ!ただいま!」

だから、ワンテンポ遅れて。
にこやかに、そう一言。

でも、私はまだ動けない。

すると、父さんも、たまらず振り向く。

「ほら、鈴子も食べてみ。こりゃあ、なかなかいけるぞ」

私は、また、ワンテンポ遅れて。

「あっ……!うん……!ありがとう!」

にこやかに、こう言う。

かなり戸惑っている。
でも、言われるがまま、湊の隣に座る。

ご飯に、味噌汁に、焼き魚。
しかも、食卓カバーまで。
完璧だ。

それを見て、また固まる。

「……これ全部、父さん一人で?」
「ああ。今の時代は、チャチャっと調べれば何でも出てくるんだから。便利になったもんだな」

父さんは、モゴモゴとそう答えた。

(へえ……スマホ見て、作ってくれたんだ……)

私は、全てを理解した。

だから、食卓カバーを外す。

キラキラ輝く米粒が、目の前にある。
白い湯気を出す。

香りもそう。
炊きたてのお米の香りだ。

「すごいなあ……初めてで、こんなにちゃんとした朝ごはんを……」

ずっと、すべてを背負わなきゃと思っていた。
でも、勝手に背負いすぎてただけなのかもしれない。

もっと、頼ってもいいのかもしれない。
そう、思えた。

だから、私はもう細かいことは考えない。
ただ、ありがたく、手を合わせる。

「じゃあ、いただきます……」

箸を持つ。茶碗を持つ。
お米を掬って、口に運ぶ。

噛み締める。
勝手に言葉が出てくる。
勝手に顔が上がる。

「うんっ、美味しい!」
「ん?だろっ?」

父さんの顔を、初めてちゃんと見た。
すごくご機嫌だ。

父さんは、またテレビを見ながら、箸を進める。

私から見えるのは、もう父さんの横顔だけ。
今なら、上手く切り抜けられるかもしれない。

私は、茶碗も箸もすべて置いた。

「父さん」
「ん?どうした?」

「今日、店終わったら、ちょっと外出れない?」
「おおー、買い出しか?」

「いや……そのー、事務所まで来てほしくって」

言葉と言葉の間に、妙な空間が生まれる。

だから、父さんも振り向く。
ジーッと、私を見つめてくる。

私は、とてつもない危機を感じた。

(や、やばい……早速?早速、バレた?)

思わず、口に入れたものをごくりと飲み込んだ。

そのとき。
父さんは、こう聞いてきた。

「打ち上げか?」
「……えっ?」

私は、とっさに聞き返す。

「打ち上げだろ?」

でも、父さんは確かに、そう繰り返す。
完全にそう、信じ込んでいる。

だから、私はもうそれ以上、何も言えない。

苦々しく笑いながら、またもや、あらぬ方向に向かってしまう。

「ま、まーーっ、そうだね。似たようなものかな?」

(そ、そうそう!とにかく、父さんが来てくれたら良いんだから……!)




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