たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
父さんは、明るく手を挙げながら、事務所のドアを開けた。

「よーーっ!宇佐見!」

デニム、ジャンパー。
完全に、いつもの飲み会気分。

部屋のあったかい温度が、流れてくる。
冷たい肌を、温める。

奥のキッチンには、宇佐見さんの背中が。
くるっと振り向いて、笑顔を見せる。

「あらー!待ってたわよー!」

ぴょんぴょん跳ねるように、近づいてくる。

でも、私は父さんの後ろで、湊を抱きながら、それはもうビクビクしている。

(どうか、拓真が来るまで、拓真が来るまで……)

「どうぞ、座って座って」

二人は、ニコニコと、あれこれ話を弾ませながら、ソファに向かう。

だから、私も、バタンとドアを閉める。

もう、冷たい風のない。
ただただ、温かいだけの部屋。

ビクビクしながら、二人の背中についていく。

父さんの隣に、湊を座らせた。
そのとき……

「悪いな。関係ない俺まで、お呼ばれされちまって」
「関係ない?どこがよ、娘がはなよ……」

私は、パッと振り向いた。
宇佐見さんの肩をガシッと掴んだ。

「宇佐見さん、ちょっと!」
「もーう、何?こんなおめでたい日に」

とにかく外に連れ出して、事情を説明しておかないと。

私は、ぐいぐいと宇佐見さんの肩を押す。
そして、ドアノブに手をかけた。

そのとき。

なぜか、勝手にドアが開いた。
冷たい風が入ってきた。

「ドンっ」

何かにぶつかった。
前が、見えない。

でも、頭の上から視線を感じる。

私は、顔を上げた。

「悪い、鈴子。遅くなって」

拓真がいた。

「う、ううん……私たちも、今来たばっかりだから」

そうやって、見つめ合ったまま。

「「ヒュー、ヒュー!」」

後ろから、宇佐見さんと根元マネージャーの、冷やかしが。

(や、やばいっ!)

私は、慌てて、振り返った。

やっぱり。
父さんが、湊が、こっちを見てる。

「なんだ?そのヒューってやつは?新手の、掛け声か?」

私は、何も言えない。 
また、苦笑いを浮かべながら、父さんを見ている。

すると、後ろから、拓真の声が。

ヒソヒソと。
でも、今日はしっかり焦ってる。

「鈴子!どういうことだ?」
「……いや、実はさ……飲み会ってことに」

私は、向こうの父さんと、見つめ合ったまま。
後ろの拓真に、コソコソ伝える。

「そういうことなら、早く言えよ」

でも、返ってきたのはその一言だけ。

バタン、とドアが閉まる。
冷たい風は、もう入ってこない。

「すみません。お待たせして」

声をしっかりモードに変えて。

ネクタイの結び目をきつく締めながら。
何度も頭を下げながら。

拓真は、私の横を通り過ぎていく。

そうだ。
私も、こうしちゃいられない。

ちゃんと背筋を伸ばした。
ニットのシワをピンと張った。

拓真の背中についていく。

そして、向かい側のソファに、二人揃って座ろうとした。

そのとき……

「いや、良いよ良いよ。お前には、お前の世界があるんだから」

私は、父さんのその言葉に、顔を上げた。
力が抜けたみたいに、ぽすっと座った。

(ちょっ、父さん!前と言ってることが……!)

隣を向く。

拓真は俯いたまま。
座ろうにも、座れず。
中腰で固まっていた。

だから、私は、とっさに肘で突いて、コソコソと、フォローを入れる。

「違う、違う!信じちゃダメだって!」




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