たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
結果、並々とした水面は、グラスの外にあふれ出した。机の上に、水たまりをつくる。

父さんは、思わず立ち上がる。

「おっとっと……はじめ、何やってんだい!」

はじめ先生も、ハッとする。

水たまりに気づく。
慌てて、瓶を縦に戻す。

「あっ、すみません!」

机の上に置く。

そのとき。

根元マネージャーが、横からスーッと、ハンカチを差し出した。

「はいっ」

そう言いながら、ニコッと笑いかける。

はじめ先生は、振り向く。

ハンカチに目を落とす。
さらりと、受け取る。

「おお、サンキュー」

そして、しゃがみこむ。
机を拭いていく。

だから、父さんは、またソファに座った。
前のめりになって。
また、ニコニコと、からかい始める。

「はじめ、すっかり骨抜きにされちまってるじゃないか」
「もう、やめてくださいよ」

はじめ先生も、苦々しく笑ってる。

「みんなー、日付変わるまでには帰るのよ?わかったわねー?」

宇佐見さんが、キッチンから、そう声を飛ばす。
さっきから、ずーっと、私たちに背中を向けている。

でも、その背中には、ずーっと、英佑さんもくっついている。

宇佐見さんが歩く。
じゃあ、英佑さんも歩く。

「宇佐見さんが一番心配ですけどね。僕は」
「もーう、何がよ?」

宇佐見さんは、止まる。
振り向く。

面倒くさそうなのに。
どこか嬉しそう。

だって、眉を顰めているのに。
頬は、ゆるゆるに緩んでいるから。

そして、また、背を向ける。
せっせと、歩き出す。

だから、英佑さんも、歩き出す。

「なあ。あの二人ってそういう?」

隣から、拓真の腑抜けた声が。

パッと、振り向く。

拓真も、私と一緒だった。
二人を見て、固まっていた。

私も、もう一度二人を見てみる。

まだ、ひっついている。
だから、ポロッと、こう言う。

「ねっ……恐らく」

私と拓真は、肩を隣り合わせて。
そんな二人を、ボーっと見ていた。

そして、同時にゆっくりと振り向いた。

顔を見合わせた。
見つめ合った。

何か、同じ気持ちを抱いているみたいに。

でも、誰かにずっと見られている。
チラッと、視線を動かす。

湊だ。
湊が、ニコニコと、私たちを見つめている。

「鈴子、拓真、何してる?」

父さんの声が聞こえる。

だから、もう一度、拓真を見る。
拓真も、私を見る。

思わず、笑いを吹き出す。

一緒に、うんうん、とうなづく。

一緒に、輪の中に走っていく。

変わったようで、変わらない。
これが、私の生活だ。




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