たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
はじめ先生が、またこちらを向こうとした。
そのとき。

拓真が、湊を抱いたまま、歩き出した。
はじめ先生の前で、止まった。

二人は、向かい合った。

(ま、また、喧嘩?)

私は、ヒヤっとする。

でも、拓真は、もうあの時とは違っていた。
はじめ先生に、深々と頭を下げた。

「今後とも、どうかよろしくお願いします」

はじめ先生も、そうだ。
一瞬、目を見開いた。

でもすぐに、眉を下げる。
困ったように、頭をぽりぽり掻く。

「ほんっと、調子狂うな」

拓真は、まだずっと頭を下げている。

根元マネージャーは、拓真を見て。
はじめ先生を見て。
こう、コソコソと耳打ちした。

「はじめ。違うでしょ」

はじめ先生も、振り向いた。

何も言わない。根元マネージャーを、ただジーッと見つめるだけ。

はぁ……と、息を吐き出した。
また、前を向いた。

ごくりと唾を飲んだ。
手を、差し出した。

「こちらこそ……お願いします」

拓真は、頭を上げた。

目と目を合わせる。

でも、やっぱり。
もう、喧嘩にはならない。

視線を落とす。

拓真も、手を差し出す。

手のひらを合わせる。
固く、繋がる。

「ほんと。恋の力は、やっぱりすごいわね」

後ろから、宇佐見さんの声が。
私は、パッと振り向く。

キッチンから、近づいてくる。
その手には、人数分のグラス。

でも、よく見るとグラスが一つ多い。
私は、もう一度ちゃんと数える。

(1、2、3……あれ?)

すると、また外の風が吹き込んでくる。

でも、あまりにも、たくさんの人が集まってくれたから。部屋の中には、酷く熱気がこもってる。
だから、もう寒くない。
心地よい。

「それは……遠回しに、僕を褒めてます?」

私は、振り返る。

英佑さんが、立っていた。

でも、英佑さんとも目は合わない。
一点だけを見つめているから。

キッチンに戻る途中。
宇佐見さんは振り返る。

「あら、英佑。遅かったじゃない」

それだけ。
また背を向ける。

だから、英佑さんは、歩き出す。

ガチャっと、ドアが閉まる。
風が、ぴたりと流れてこなくなる。

私も、通り過ぎて。

シンクの前に立つ宇佐見さん。
その背後で止まった。

手を、前に回した。
ひらひらした袖を、くるくるとめくっていく。

いつもの宇佐見さんなら。
絶対に跳ね返すはずだ。

でも、今日は違う。
振り返る。

ふわっと笑って。
少しだけ甘ったるい声で。

「もう、良いから。早く、手伝ってちょうだい」

私は、また固まっていた。

でも、父さんの楽しそうな声が、ソファの方から聞こえてくる。

「ぷっはー!やっぱ、こんなめでたい日に飲む酒は、うまいなー」

だから、私はパッと振り向いた。

すると、はじめ先生と、根元マネージャーが、私の前を、通り過ぎていく。

はじめ先生は、机の前で、膝を曲げる。
ビール瓶を、持ち上げる。

父さんの手には、空っぽのグラスが。
だから、そこにビールを注ぐ。

はじめ先生は、グラスを見つめながら、明るくこう言う。

「もーう、小濱父。一人でなんて、水臭いですよ」

はじめ先生の背後には、根元マネージャーが。

後ろからチラッと、顔を出す。
これまた明るく、父さんに話しかける。

「そうです!そうです!これからも、じゃんじゃん、こき使ってくださいね。はじめ、私がいない時間、寂しくしてるみたいなんで」

それには、はじめ先生も、瓶を傾けたまま。
ぴたりと、固まってしまう。

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