たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
拓真が笑わないから。
私も、もう笑えなくなった。

だって、誕生日って、真っ先に家族が、必ず祝ってくれるもので。
どれだけ全速力で駆け抜けていても。勝手に過ぎていくことは、一度もなかったから。

(これまで、拓真は、どんな風に過ごしてたんだろ?)

拓真の顔を、遠くから、見つめて。
そんなことを考えていた。

でも、拓真が起き上がる。
もう、私の近くにいる。

「でも、もう大丈夫だな」
「……ん?なにが?」
「お前が横にいてくれたら、絶対思い出すだろ?」

そうだ。

私たちには、この人がいなきゃ生きていけないなんて、そんな幻想じみたこと言えない。
だって、何があっても、生きていかなきゃいけないから。

でも、今みたいに。

きっと、ずっと思い出せるものになるから。
だから、その日まで一緒に生きていく。

でも、面と向かって言うのは。
やっぱり、気が引ける。

だから、私はまた背を向けた。
笑いながら、こう言っていた。

「じゃあ、ずーっと拓真の横に、いるっきゃないねえ」

アイロンに手を伸ばす。
もう、持てないくらい、熱くなりすぎてる。
一度、電源を切る。

そのとき。
後ろから、拓真の声が。

「鈴子」
「ん?」

私は、振り向く。

いきなり。
ざらりとした唇が、ぶつかってくる。

目を思いっきり見開く。

でも、今日も拓真の睫毛がちゃんと見える。
だから、私の目はすぐさま、くしゃっとなる。
一緒に、目を瞑る。

そして、唇が離れる。
目を開く。

拓真の顔が見える。

もう、違う。

思い悩んだ顔じゃない。
ただただ、ニコッと、笑っていた。

私の頬に、拓真の手のひらが。

「ケーキ。買ってきたから。あとで食べよう」

だから、私も。
ニコニコと、うなづく。

微笑みあったまま。
見つめ合ったまま。

拓真の顔が、また近づいてくる。
私は目を瞑る。

そのとき。

ガチャと、音がする。

湊の声がする。
フニャとした、寝起きの声。

「おめでとう」

私は、目をパッと開いた。

身体を飛び跳ねさせた。
拓真から離れた。

「うわっ!」

心臓がものすごい速さで動く。
息はハアハアと上がる。

さっきの茶色いスーツだ。

湊は、ドアの前に立って。
小さな白い箱を持って。
私たちを、じっとみている。

「これ、僕の分もある?」

私は、拓真を見る。

息を上げて。
肩を上下させて。
眉を顰めて。

「……あるに決まってるだろ!てか、湊!その入り方はやめろって!心臓に悪い!」

こう、吠えている。

でも、湊は、もう私たちを見ない。
くるりと方向を変える。

向こうのテーブルしか見ていない。
小さな箱を抱えて、ルンルンと歩き出す。

そして、そんな可愛い子を見てしまえば。
もう、私たちは何も言えない。

でも、湊が、ちょうどソファの横を通り過ぎようとした。そのとき。

拓真は、ソファの背に肘をかけながら、こう軽く呼びかける。

「おーい。こんな夜中だぞ。もう、明日の朝にしといた方がいいんじゃないかー」

湊は、止まった。

拓真を、見たあと。
私を、見てくる。

そうだ、と言えなかった。

だって、こんな誕生日も、いつかきっと、思い出す日がくるんだから。

だから、ニコッと、笑いながら。
こう言っていた。

「もーう、今日だけだよ??」

拓真は、パッと振り返る。
私を、見てくる。

目を思いっきり見開いて。
お前、何言ってんだ?って顔してる。

こういうとき。
私は、いつもこうする。

笑いかけながら。
こてんと、首を傾ける。

湊も、私に続く。

にっこり笑いながら。
首を傾ける。

拓真は忙しい。

私を見て。
湊を見て。

また、私を見て。
止まった。

はぁ……と、肩を落とした。
仕方なさそうに、呟いた。

「わかったよ……」

私は、湊と顔を合わせた。

湊は、ニコニコ。
私も、ニコニコ。

「「いえーい!!」」

ソファを挟んで、ハイタッチした。

もう、湊はいない。

また、ルンルンと。
向こうのダイニングテーブルへ。

だから、私たちも、立ち上がる。

「なあ。続き、忘れるなよ?」
「……もーう。わかってるって」

そう、コソコソ話しながら。
私は、また笑ってる。

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