たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
ガーデンチェアに腰を落ち着け、ひとまず自分も、プシュっとビール缶の空気を抜いた。

もう改まって感謝を言うことも、私たちの間では余計なことらしい。

だから拓真に合わせて、思いっきり飲みのテンションで話したつもりだった。

「でも、あの提案にはびっくりしたなあ」
「ん、何でだ?」

「そりゃあ、柳生さんは、普段から本の虫?って感じじゃないですか」
「まあ、そうだな……自覚はちゃんとあるよ」

なのに、拓真は思いのほか重く受け止めて、大きくため息をつく。

私はとにかく釈明しなければと、一息で捲し立てるように喋ってみせた。

「いや、違う違う!責めてるわけではなく、事実として!事実としてだから!」

少々荒ぶりすぎたのか、息はハアハアと上がる。

呼吸を整えるようにぐいっと缶を傾け、また前を向いた。

すると、私の目には拓真の顔が、やけにはっきりと映る。

「えほっ、えほ……」

驚きのあまり、飲み込みに失敗した私は、激しく咽せ込んだ。

(……ん?な、なぜ目の前に?)

でも拓真はまるで、そんな私が見えていないみたいに、そのまま話を続ける。

「それを言うなら、あいつもじゃないか?」

「……んっ。湊?」

「付箋、びっしり貼ってあったぞ。それに、セリフも。ちゃんと自分の中に落とし込んであった」

もうビールは味わうものではない。

目の前の顔面をいかに視界に入れないか。

もはやそのためだけにあるものだ。

「ああー……いや、難しいことはわからないけど。台本いただいてから、毎日のように、図書館連れてけー、って言うようになって。あんな夢中になる湊を見たのは、私も初めてで」

「へえー……ちゃんと、お姉ちゃんしてるんだな。お前は」

(ちゃんと、ねえ……)

果たしてその言葉に相応しい人間になれているのか、自分でもよく分からない。

どこか答えを求めるように、空からどっしりと私たち見守る、偉大な月を見上げてみた。

「んー………ちゃんとしてるかは、分からないけど。せめて、自分がしてもらったことは、全部伝えたいっていうかさ」
「……そうか。俺も、見習わないとな」

(またまた、ご冗談を……)

そんな冗談に乗っかるように、私は軽く笑いながら、ようやく拓真と、ちゃんと目を合わせようとした。

「何言ってるんですか。柳生さんはもう、ちゃんとしすぎなくらいで……」

でも、そこにはもう誰もいない。

視線を少しずつ下げていくと、ようやくその人の顔が見えた。

拓真は腕を下敷きにしながら、意識を失っているみたいだった。

(……えっ?何?また倒れた?)

しかし、そんな心配を拭うように、しーんとした夜には、スヤスヤとした寝息だけが聞こえる。

外が明るいときより、ずっと視界は悪いはずなのに、穏やかな顔つきは、今までにないくらいはっきりと見えた。

(……やっぱり、睫毛長いな)

やっと影がかかってきていたはずの、あの俯いた横顔が、またはっきりとした映像として浮かんでくる。

別に誰かに見られているわけでもない。

私さえ、また静かに色褪せるのを待てば良い。

(ちょっとだけなら……)

だから私は今、拓真と同じ格好をして、あの頃と変わらない睫毛の曲線を、性懲りもなく見つめている。

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