たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
そうして二人を、リビングまで連れて行く。
すべてに気づいた拓真は、ゆっくりと目隠しを外し、腕の中から湊を下ろした。
「じゃ、じゃーん!」
「えーーっ?なんで?」
食卓に目立つように置かれたそれを見つけると、湊は飛びつくように走り出した。
「ねえさん、うちから持ってきてくれたの?」
「うん!湊、好きでしょ?かき氷」
その子は首がもげそうなくらい、何度も激しくうなづいている。
すると、それまで息を潜めていた拓真が、相変わらず低い温度でこう聞いた。
「……そんなに、好きなのか?」
「うんっ!あとはね、バーベキューに流しそうめんに、線香花火だってするんだよ!」
湊は、早くやりたくてウズウズしているのか、いつも以上にテキパキと、帰宅後のルーティンを始めた。
「手、洗ってくる」
「はーい」
でも拓真は、部屋から出ていこうとする湊を、なぜかひょいと捕まえた。
そして、こう言う。
「……やるか」
拓真は、湊に向かって話している。
「えっ?」
だけど、あまりに唐突な言葉に、思わず私が心の声を口に出してしまう。
もちろん、その声も、誰からも相手にされない。
というか、まるでなかったことにされる。
「バーベキューに、流しそうめんに、線香花火。全部、したいんだろ?」
湊は、急に身動きが取れなくなったからか、どこかムーっとした顔で、拓真の腕の中にいた。
でも、その言葉に、一瞬でご機嫌を取り戻したようだった。
「うんっ!したい!」
こうして湊の楽しみが、また一つ増えた。
よっぽど嬉しかったのか、湊は私の隣で、幸せそうな寝顔を浮かべて、スヤスヤと眠っている。
この寝顔を見ていれば、すべての疲れが吹っ飛んでいく。
でも、今日この寝顔をつくり出しているのは、私だけじゃない。
だから、私には拓真のあの一言が、とても重く感じられた。
水でも飲んで、一度気持ちをスッキリさせようと、寝室を出る。
リビングにはまだ明かりがついていた。
ガチャリとドアを開けると、拓真がいとも簡単に振り返る。
昨日の夜みたいに、また窓を開けながら、外のテラスに立っていたからだ。
「なんだ。眠れないのか」
「うん。ちょっと、水を貰いに……」
ヨレヨレの白T。
グレーの地味なショートパンツ。
でも、もう一回出直してこようとか、そういう気にもならない。
車の走行音さえ、生い茂る緑に遮られた、音のない夜。
朝、右から左に抜けていった、あの言葉が今になって、私の余白に漬け込んでくる。
(豹変……?うん、ないない)
首を左右にぶんぶん振りながら、一人でそんな脳内会話を繰り広げていた。
でも、外の生温い風を直に受けたとき、そこに拓真の声が割り込んでくる。
「……お前、忘れてないか」
「えっ?」
その声に振り向くと、拓真の両手は、花ならぬ、ビール缶で塞がれていた。
(あっ、いっけない。昨日、そんな約束してたかも……)
「ああー。そうだった、そうだった」
昨日と同じく、あっさり片方を受け取る。
すると拓真もそれで満足したのか、あっけなく背を向けて、プシュッと爽快な音を出す。
もう、ここにいる必要はない。
でも、昨日と全く同じ銘柄のビール缶が、やけに重く感じる。
私はそれを見つめたまま、動けなくなった。
まだ空気すら抜けていないからだろうか。
いや、違う。
よく考えてみれば、私が今日もらったものは、これだけじゃないからだ。
だから私は、その重荷を下ろした。
「……ありがとうございました」
「ん?何がだ?」
「湊のお願い、聞いてくれたじゃないですか」
「……ふはっ」
でも拓真は、私の言葉に、軽く笑った。
(えっ?なんで?今、笑うとこじゃなくない?)
そして、また昨日みたいに、ビール缶を不規則なリズムで叩きながら、その笑いの意味を言葉にする。
「お前に、礼なんて言われても困るだろ」
「……困る?」
「お前のために、してるみたいになるからな」
(まあ……それもそっか。もう余計な意味は、混ぜたくないもんね)
拓真のいうことは、間違っていない。
でもなぜか、はっきりと突き放されたような気になって、胸がチクリと痛んだ。
別に突き放されるといえるほど、もう近い関係でもないのに。
「礼なんか良いからさ。代わりに一杯だけ、付き合ってくれないか?」
この重くて仕方がないビール缶だって、空っぽになれば、自然と軽くなるはずだ。
一本のビールを飲み切るまで。
それまでなら、テラスに置かれたテーブルチェアから、拓真の背中を見ても良い。
そんな許可を、自分にも出した。
「……はいはい。結局それが望みだったんでしょ」
すべてに気づいた拓真は、ゆっくりと目隠しを外し、腕の中から湊を下ろした。
「じゃ、じゃーん!」
「えーーっ?なんで?」
食卓に目立つように置かれたそれを見つけると、湊は飛びつくように走り出した。
「ねえさん、うちから持ってきてくれたの?」
「うん!湊、好きでしょ?かき氷」
その子は首がもげそうなくらい、何度も激しくうなづいている。
すると、それまで息を潜めていた拓真が、相変わらず低い温度でこう聞いた。
「……そんなに、好きなのか?」
「うんっ!あとはね、バーベキューに流しそうめんに、線香花火だってするんだよ!」
湊は、早くやりたくてウズウズしているのか、いつも以上にテキパキと、帰宅後のルーティンを始めた。
「手、洗ってくる」
「はーい」
でも拓真は、部屋から出ていこうとする湊を、なぜかひょいと捕まえた。
そして、こう言う。
「……やるか」
拓真は、湊に向かって話している。
「えっ?」
だけど、あまりに唐突な言葉に、思わず私が心の声を口に出してしまう。
もちろん、その声も、誰からも相手にされない。
というか、まるでなかったことにされる。
「バーベキューに、流しそうめんに、線香花火。全部、したいんだろ?」
湊は、急に身動きが取れなくなったからか、どこかムーっとした顔で、拓真の腕の中にいた。
でも、その言葉に、一瞬でご機嫌を取り戻したようだった。
「うんっ!したい!」
こうして湊の楽しみが、また一つ増えた。
よっぽど嬉しかったのか、湊は私の隣で、幸せそうな寝顔を浮かべて、スヤスヤと眠っている。
この寝顔を見ていれば、すべての疲れが吹っ飛んでいく。
でも、今日この寝顔をつくり出しているのは、私だけじゃない。
だから、私には拓真のあの一言が、とても重く感じられた。
水でも飲んで、一度気持ちをスッキリさせようと、寝室を出る。
リビングにはまだ明かりがついていた。
ガチャリとドアを開けると、拓真がいとも簡単に振り返る。
昨日の夜みたいに、また窓を開けながら、外のテラスに立っていたからだ。
「なんだ。眠れないのか」
「うん。ちょっと、水を貰いに……」
ヨレヨレの白T。
グレーの地味なショートパンツ。
でも、もう一回出直してこようとか、そういう気にもならない。
車の走行音さえ、生い茂る緑に遮られた、音のない夜。
朝、右から左に抜けていった、あの言葉が今になって、私の余白に漬け込んでくる。
(豹変……?うん、ないない)
首を左右にぶんぶん振りながら、一人でそんな脳内会話を繰り広げていた。
でも、外の生温い風を直に受けたとき、そこに拓真の声が割り込んでくる。
「……お前、忘れてないか」
「えっ?」
その声に振り向くと、拓真の両手は、花ならぬ、ビール缶で塞がれていた。
(あっ、いっけない。昨日、そんな約束してたかも……)
「ああー。そうだった、そうだった」
昨日と同じく、あっさり片方を受け取る。
すると拓真もそれで満足したのか、あっけなく背を向けて、プシュッと爽快な音を出す。
もう、ここにいる必要はない。
でも、昨日と全く同じ銘柄のビール缶が、やけに重く感じる。
私はそれを見つめたまま、動けなくなった。
まだ空気すら抜けていないからだろうか。
いや、違う。
よく考えてみれば、私が今日もらったものは、これだけじゃないからだ。
だから私は、その重荷を下ろした。
「……ありがとうございました」
「ん?何がだ?」
「湊のお願い、聞いてくれたじゃないですか」
「……ふはっ」
でも拓真は、私の言葉に、軽く笑った。
(えっ?なんで?今、笑うとこじゃなくない?)
そして、また昨日みたいに、ビール缶を不規則なリズムで叩きながら、その笑いの意味を言葉にする。
「お前に、礼なんて言われても困るだろ」
「……困る?」
「お前のために、してるみたいになるからな」
(まあ……それもそっか。もう余計な意味は、混ぜたくないもんね)
拓真のいうことは、間違っていない。
でもなぜか、はっきりと突き放されたような気になって、胸がチクリと痛んだ。
別に突き放されるといえるほど、もう近い関係でもないのに。
「礼なんか良いからさ。代わりに一杯だけ、付き合ってくれないか?」
この重くて仕方がないビール缶だって、空っぽになれば、自然と軽くなるはずだ。
一本のビールを飲み切るまで。
それまでなら、テラスに置かれたテーブルチェアから、拓真の背中を見ても良い。
そんな許可を、自分にも出した。
「……はいはい。結局それが望みだったんでしょ」