たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
もう、無理に、明るくしないで良い。
そうなった途端、身体から力が抜けた。
まっすぐ歩けない。
肩から提げたトートバッグは、何度も何度も、ずり落ちてくる。
でも、誰も、何も、支えてくれやしない。
受け止めてくれやしない。
だから、壁を伝いながら、スニーカーを引きずりながら、一人で、歩いていく。
足音は、一つ、一つ、はっきり聞こえる。
ここは、こんなにも静かだ。
なのに、私の頭の中は、ずーっとうるさい。
ずーっと、緩んだ靴紐を見ながら、過去の自分を、責め立てている。
(ほんっと、恥っずかしい。何やってんの、一人で。ばっかみたい)
エレベーターが、勝手に開く。
そんな恥ずべき自分が、世界に晒された。
普段なら、絶対にそうはならない。
だけど、今日はいくつもの目が、すべてこちらに集中しているように思えてくる。
だから、ますます顔を上げられなくなる。
鏡越しに一瞬見えた私の頭は、まるでよがっていた自分をありありと突きつけるみたいに、あちこちから毛が飛び出ていた。
私はそんな自分を、世界から隠すように、隅の方で俯きながら、必死になって、髪の広がりを押さえこむ。
俯いた影では、また、痛みも忘れて、唇を噛みちぎっている。
(ほんっと、はっずかしい……)
とにかく恥ずかしかった。
一人で盛り上がっていた自分が。
だから、通路の壁に何度も肩をぶつけながら、前に、前に、進み続けている。
でも、一つのソファが、視界の隅に映る。
私は、止まった。
ちょうど、一ヶ月前。
そこに、黄昏中の湊と並んで、座っていたんだから。
(……このまま、帰っちゃダメだ)
私は、ソファに、尻を叩きつけた。
窓の外には、濃い漆黒が広がっている。
バッグの中から、スマホを取り出す。
深夜二時。
もう、湊はとっくに寝ている。
窓ガラスに反射した自分は、背中が丸く、髪もボサボサ、頭もずーっと落ちていた。
背筋を、しゃんと伸ばす。
緩んだ髪の結び目を、きつく締め直す。
腰を曲げて、靴紐もちゃんと縛る。
吸い込む息で、立ち上がる。
もう、自分の足で、ちゃんと日常に向かって、歩いていく。
タクシーの後部座席から、見えたのは、丸々とした月の光だった。
こんな日だって、ふと空を見上げれば、私たちの頭上で、月が、星が、輝いている。
だから、何があったって、世界には変わらず夜が訪れて、いつもの朝を呼ぶ。
私は湊にとってそんな存在でありたい。
そんな存在でなければならないのだ。
そりゃあ、恥ずかしい。
恥ずかしくてたまらない。
でも、そんなズタボロの心だって、また日常が、元に戻してくれるんだから。
やっと、小濱家に、帰ってきた。
そーっと、店の鍵を開けて、明かりのない場所を、感覚だけで歩いていく。
もう、誰がどこにいるかも、わからない。
でも、食卓からは、高低様々な、いびきの合唱が聞こえてきた。
だから、その中に、自分も紛れ込ませて、瞼を閉じる。
そして、また目を開けたときには、いつもと変わらない朝が、ちゃんと戻ってきた。
私は、やっぱり、この日常があるから、すべての痛みから、目を背けられる。
そうなった途端、身体から力が抜けた。
まっすぐ歩けない。
肩から提げたトートバッグは、何度も何度も、ずり落ちてくる。
でも、誰も、何も、支えてくれやしない。
受け止めてくれやしない。
だから、壁を伝いながら、スニーカーを引きずりながら、一人で、歩いていく。
足音は、一つ、一つ、はっきり聞こえる。
ここは、こんなにも静かだ。
なのに、私の頭の中は、ずーっとうるさい。
ずーっと、緩んだ靴紐を見ながら、過去の自分を、責め立てている。
(ほんっと、恥っずかしい。何やってんの、一人で。ばっかみたい)
エレベーターが、勝手に開く。
そんな恥ずべき自分が、世界に晒された。
普段なら、絶対にそうはならない。
だけど、今日はいくつもの目が、すべてこちらに集中しているように思えてくる。
だから、ますます顔を上げられなくなる。
鏡越しに一瞬見えた私の頭は、まるでよがっていた自分をありありと突きつけるみたいに、あちこちから毛が飛び出ていた。
私はそんな自分を、世界から隠すように、隅の方で俯きながら、必死になって、髪の広がりを押さえこむ。
俯いた影では、また、痛みも忘れて、唇を噛みちぎっている。
(ほんっと、はっずかしい……)
とにかく恥ずかしかった。
一人で盛り上がっていた自分が。
だから、通路の壁に何度も肩をぶつけながら、前に、前に、進み続けている。
でも、一つのソファが、視界の隅に映る。
私は、止まった。
ちょうど、一ヶ月前。
そこに、黄昏中の湊と並んで、座っていたんだから。
(……このまま、帰っちゃダメだ)
私は、ソファに、尻を叩きつけた。
窓の外には、濃い漆黒が広がっている。
バッグの中から、スマホを取り出す。
深夜二時。
もう、湊はとっくに寝ている。
窓ガラスに反射した自分は、背中が丸く、髪もボサボサ、頭もずーっと落ちていた。
背筋を、しゃんと伸ばす。
緩んだ髪の結び目を、きつく締め直す。
腰を曲げて、靴紐もちゃんと縛る。
吸い込む息で、立ち上がる。
もう、自分の足で、ちゃんと日常に向かって、歩いていく。
タクシーの後部座席から、見えたのは、丸々とした月の光だった。
こんな日だって、ふと空を見上げれば、私たちの頭上で、月が、星が、輝いている。
だから、何があったって、世界には変わらず夜が訪れて、いつもの朝を呼ぶ。
私は湊にとってそんな存在でありたい。
そんな存在でなければならないのだ。
そりゃあ、恥ずかしい。
恥ずかしくてたまらない。
でも、そんなズタボロの心だって、また日常が、元に戻してくれるんだから。
やっと、小濱家に、帰ってきた。
そーっと、店の鍵を開けて、明かりのない場所を、感覚だけで歩いていく。
もう、誰がどこにいるかも、わからない。
でも、食卓からは、高低様々な、いびきの合唱が聞こえてきた。
だから、その中に、自分も紛れ込ませて、瞼を閉じる。
そして、また目を開けたときには、いつもと変わらない朝が、ちゃんと戻ってきた。
私は、やっぱり、この日常があるから、すべての痛みから、目を背けられる。