たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
しばらくすると、拓真が、再びソファから立ち上がった。

目で、その人を、追いかける。
なぜか、私の前で、片膝を立てて、しゃがみこんだ。

(いや、これ以上は、さすがに甘えすぎだからね!)

「ありがと!あとは自分で」

どこかで、区切りをつけなければ、ズルズルと甘え続けてしまう。

だから、私は尻を浮かせた。
しかし、なぜか右足まで、勝手に浮き上がり、私は思いっきり、バランスを崩す。

「……っ…わ…!」

結局、私の尻は、またソファの上に戻された。

いつのまにか、右足まで、拓真の片膝に向かって、真っ直ぐと伸びている。
冷えた指の先の温度まで、しっかりと感じた。

身体は、動かせない。
だから、言葉で拒む。

「ねえ、ほんとに、もう十分だか……っ……!」

しかし、指先以上の冷たさが、右足首から全身へ、一気に広がった。
私は、言葉すら失う。

「……なんだ?冷たいか」

「ちょっと、わざとやってるでしょ」

冷たさから?
苛立ちから?
顔をゆがめながら、強く反発する。

なのに、拓真は、また足首しか見ていない。

「ん?どうだか……?」
「もう!絶対そうじゃん」
「良いから。そのまま、じっとしてろ」

そうだ。
今日は、私が話すために、来たんじゃないんだから。黙っていればいい。

でも、拓真まで、だんまりを決め込んだまま。

針の音が、一つ一つ、はっきりと聞こえるようになる。

(……ほんと、なんなの?)

拓真が、ようやくこっちを見た。

「痛いか?」
「……いや?冷たいだけ」

でも、いざそうなると、私は下を向いてしまう。

私の肩は、上に、上に、引っ張られている。
指のせい?
氷のせい?
身体が、勝手に、ボロを出すから。

帰りたくなる。
でも、私は、まだ帰れない。
拓真が、話してくれないから。

(……もう、さっさと話きいて、うちに戻ろう)

「ねえ……何か、話あったんじゃないの?」
「ああ、そうだ。この間な、一周忌、行ってきたんだ」

拓真は、やっと話を始めた。

何も、変わっちゃいなかった。

(ああ……そっか……本当に、ここまで綺麗さっぱり、なかったことになっちゃうんだ)

ただの話し相手に、戻らなきゃいけない。

だから、私は新しい空気をしっかり吸い込んで、もう俯くこともない。

「一周忌……って、寺沢さんの?」
「そう。寺沢さんには、長年連れ添った奥さんがいるって、前に話しただろ?」
「うん、聞いた聞いた」

(……良かった。ちゃんと元に戻れてる)

「凄い幸せそうに、寺沢さんの話してくれてな。普段、寡黙な人だったけど、俺が知らなかったお茶目なところもいっぱいあってさ」
「へえ。そっか、そっか」

こうやって、相槌を打っていれば、自然に笑える。肩の力も、少しずつ抜けていく。

このまま、何もなかったことに出来そうな、そんな予感さえ、感じていた。

< 79 / 157 >

この作品をシェア

pagetop