たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
心深くまで、刃を突き刺せば、突き刺すほど、もう同じ思いは、二度としたくなくなる。

だから、人間は一度失敗すれば、なかなか同じ間違いを繰り返さない。

今日は、受話器のような、遠く離れたものなんかじゃない。

自分の皮膚に、きつくきつく、爪を立てられて良かった、とさえ思う。

「そうか……俺はな、全くだ。うん、全く」

(なっ、な……?)

でも、拓真は、こんなに酷い言葉を浴びせているのに、ちっとも怒りやしない。

目をうんと細めて。
目尻まで下げて。
一人で、しきりに頷いてる。

そんな横顔を見ると、何もかも忘れて、飛び込みたくなってしまう。

だから、私は、また下手な声を、外へ出すように、下を向く。

「……もう、やめようよ」

「いや……それどころか、近頃は、もっと、もっと、離れたくないが増えてるな」

「だから、やめてって……」

(本当に、今日の拓真、しつこい……)

拓真が、話せば、話すほど、私は深く爪を食い込ませる。

深紅のエプロンは、治せないほど、きついシワをつくりだす。

だって、致命傷のように、救いようがないくらい、傷つきたいから。

「昔っから、お前が運良く、夢に出てくると、よく眠れてさ。最近は、不思議と、よく出てきてくれて……」

(もう、やめて、やめて……)

これ以上ないところまで、爪を貫通させた。

もう、限界だ。

いっぱいいっぱいの気持ちを、声に出しながら、立ち上がった。

「だから!やめてって言ってるの!!」

俯く影で、痛みに耐えながら、真っ赤になっていた顔も、くしゃくしゃになった顔も、すべて晒した。

これ以上、拓真の言葉に、私が染められたら、本当に自分の役割を忘れて、かけがえのない日常を、軽く捨ててしまいそうだった。

湊の影が、私の中から、ほんの少し薄れた。
ほんの少しでも、たった一瞬でも。

本当に、醜い大人だ。私は。

なのに、拓真が見せた顔は、綺麗なまま。
ちっとも、崩れちゃいない。

「聞きたくなかった。来なければ良かった……そう思ってるのか、お前は」

「……っ、そうだよ!」

「……そう。それが鈴子の後悔しない選択だったら。俺だけでも、一生、この気持ちを持って生きていくよ……俺には、それだけの、責任があるからな」

(………一生?何、言ってんの?)

全身から一気に、血の気が引いていく。

あんなにいきんで、真っ赤になっていた指先も、とたんに力をなくした。
だらんと、腕を落とす。

余計な重荷は背負わせたくないと。
あのとき、全てを見せない選択をしたから、私たちには今がある。

今日の拓真は、間違っている。
心の中で、ダメだ、ダメだ、という声が、猛烈に騒ぎ出した。

「お前が変わったとしても、俺の気持ちは何も変わらないし、この先もずっと変わらない。だから、鈴子がサインを出せば、俺はいつだって自分から迎えにいくし、いつだって……」

「違う、違うよ。柳生さん」

私は、ずっと感情的になっていた。
でも、今は至って冷静に、拓真のひた走る言葉を、止めていた。

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