たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
だから、私も、慌てて、振り返る。

「ち、ちが……そういう意味じゃなくて」

ギロリと、鋭い眼光で、睨みつけられた。

「はなっから視界にも入れやしないのに、好きじゃないと決めつけるのは、さすがにおかしくないかって」

拓真は、怒っても静かだ。
でも、声の色一つで、目の色一つで、しっかり怒りを、ぶつけられた。

長い付き合いの中で、これが初めてだった。

「なあ。俺が何で、お前の名前を呼ばなかったと思う。何で、頑なに触らなかったと思う」

針の音がいくら鳴ったって、言葉は出てこない。

だから、私はまた、ごくりと唾を飲む。
何も言えない。

別に、睨みにビビってるわけじゃない。

本当に、答えが、分からなかった。

拓真は、そんな私に、とうとう愛想をつかしたらしい。
また、はぁ……とため息をついて、頭を抱えだした。

「……あのな……心底、好いてるからだよ。俺にとって、お前は、死ぬまで、鈴子でしかないからだよ」

私も、一緒だ。
私も、はぁ……とため息をつきながら、頭を抱えることになった。

なにも、拓真のはだけた場所から、目を逸らすためではない。

その言葉に、膝から崩れ落ちてしまいそうなほど、絶望したからだ。

「……とにかく、俺は絶対に忘れないからな」

(なんで?なんで、分かってくれないの?)

ガチャガチャと、音が聞こえる。
さっきより、少し、丁寧だ。

頭を抱えたまま。
そちらに、目を向けると、抜き取った帯革を、また、ベルトループに通そうとしていた。

私は、もうそこしか見ていなかった。

腕を下ろした。
歩き出した。

「お前は、忘れたいんだろ?じゃあ、さっさと忘れ……」

拓真は、まだ一人で何か、ぶつぶつ喋ってる。
でも、私には、もう何も聞こえていない。

ただ、左右離れた太腿の間に、ゆっくりと両膝をつく。

「……何の真似だ?」

拓真も、やっと私に気づいたみたいだ。

でも、もう私が見るのは、はだけた場所だけ。
返事も、返さない。

何を言ったって、今の拓真には、通じないんだから。

ガチャガチャと、がさつな音を出しながら、浅く刺さるつく棒を、小穴から引っこ抜く。
力ずくで、ボタンを引っ張り出す。

ファスナーの引き手を、二つの指で摘む。
また、拓真の手が、私を止めた。

今は、優しさなんてない。
男の人の力だ。

「やめろ」

痛い。

でも、気にしない。

私だって、血が止まるくらい、指と指を、強く引っ付ける。

「……じゃあ、好きじゃないって言って」

(言って、言ってよ……)

たった一言。
それさえくれたら、すべて元に戻せる。

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