たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
「……えっ?」

その顔は、相変わらず無表情で、何も確かめようがない。

だから、もう一度、顔を下げる。
いつの間にか、比翼は閉じられていた。

また、そのまま、固まった。
あまりの衝撃で、すべての思考が、パーンっと弾け飛んだ。

「どうだ?これで、気は済んだか」

もう一度、拓真の顔を見てみる。

私は、やっと、理解した。
どんな醜態を、その瞳にひけらかしたのか。

(わ、わ、わ、わ、わ、私はなんてことを……)

どっしりと、尻餅をついた。

少しずつ、少しずつ、後退していく。
こんな如何わしい人間を、その瞳に、一秒たりとも映したくない。

恥ずかしさとか、自責の念とか。
足の先から、いっぺんに熱いものが、せり上がってくる。

私は、立ち上がる。

「……ご、ご、ご、ごめん、帰る!……」

回れ右をした。

「っ…いっ、た……」

また、右足を、挫いた。

足に、手が……
でも、もう止まらない。

中腰になりながら、負傷した足を、引きずって歩いていく。

「ゴーーンッ」

ローテーブルの角に、小指までぶつけた。
この痛みには、勝てなかった。

「…うぅぅ……」

小さく、うずくまった。
うずくまりながら、出口を目指す。

やっと、リビングのドアまで来た。
私は、しゃんと、立ち上がる。

「ガーーンッ」

額を、思いっきり打ちつける。
私の身体はぐらつく。

「…っ、くっ……」

右手は、ズキンズキン脈打つ額に。
左手は、ドアノブを下げる。

目にたっぷり溜まった涙は、いろんな味を含んでいたと思う。
痛みやら、恥ずかしさやら、情けなさやら。

「っはははは……」

でも、私が、この部屋で最後に聞いたのは、拓真の、吹き出し笑いだった。

一方的に感情をぶつける声でもなく、ましてや互いを罵り合う声でもない。
それだけが、せめてもの救いだった。

私が見せた後ろ背は、きっと百年の恋も冷めるくらい、さそがしみっともないものだっただろう。

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