たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
差し込む光だけで十分だった教室にも、蛍光灯の光が必要になるほど、窓の外にはすっかり暗闇が広がっている。

(……ははは。まさか、こんなに大変だとは……最後の最後までこうして終わっていくみたいだね、私の青春は……)

三年間という期間は、これが私の居場所なのだと思い込むには、十分な時間だった。でも、その魔法もあと少しで解ける。

私の居場所は、優等生たちのサポート係から、下町の「たい焼き屋」に戻る。

別にどちらも嫌だったわけではない。

かと言って、それもこれも今までやってきたことが、本当に自分の心が勝手に動き出すくらいの時間だったかといわれたら……

うーん。自分にもまだよく分からない。

すると、もう校舎に残る生徒は誰もいないはずなのに、ガラガラと教室のドアを開ける音が聞こえ、動き続けていた私の手はピタリと止まった。

「おはようございます」

「……おはよう、って…ははっ……」

その声は、やっぱり自分の耳で聞いても、子供ならではの無邪気さはすっかりと消え、声変わりをとっくに終えた落ち着いたものだった。

でも、何事にも真っ直ぐな性格は、当時から全然変わらない。

振り向かなくても誰のものか分かる、その声にホッとして、私の手はまた動き出す。

「なんだ、鈴子か……」
「なんだ……って、何よ」
「いや?気遣って損したな、って?」

(ちゃんと昔みたいに話せてるじゃん!あ〜良かった〜)

「まーた、大変そうなこと引き受けてるねえ……」
「好きでやってるんだから、良いんだよ〜」

その行為にどんな意味があるか分からないけれど、拓真はホワイトボードに張り出された掲示物や壁時計などを、じっくりと観察している。

(それにしても、背伸びたな〜今なら180くらいあるんじゃないの?)

教室を大体一周すると、五分なら大丈夫か……と呟いて、前の子の椅子を、私の机に向かって引き出す。

その椅子の背もたれを抱きながら、私の前に広げられた折り紙の山を覗き込むように、顎を乗せ始めた。

「……何見てんの?」

「ん?頑張ってんな〜って…」

(何を言ってるんだか……そっちの方がよっぽど色んなもの抱えてるくせに……)

「拓真は?戻らないで良いの?」

「……俺だって、一応ここの学生だからね……最後に一つくらい青春らしいことしたいんだよ……」

(青春……かぁ……確かにブレザーを着た拓真を見たのは、これが初めてだな……)

任された作業を終わらせようと、手元に視線を落としながら聞こえてくる拓真の声は、あの頃と全然違うのに、どこか懐かしくて心地良かった。

「鈴子は、卒業したらどうすんの?」
「どうするって。ほら、たい焼きがあるから」

「もう、こっちの世界、戻ってくる気ないの?」
「まあ、そうなるね〜」

でも、しばらくすると目の前には拓真もいるはずなのに、また一人でいたときみたいに、時計の針の進む音が強く聞こえてくる。

(えーっと、昔は何、話してたっけ。嘘……待って。私、拓真のこと、ぶった斬ってなかった?……なんか余計なことまで思い出しちゃったんですけど!いや、一旦、それは見なかったことにして……劇団のこと?ううん。ダメ、ダメ。あの階段での一件?そんなの、もっとダメだって!)

「鈴子は、うちのこと、聞かないんだな」

「……ん?別に……聞いたって分かってあげられるわけじゃないし」

(あからさまに声のトーンが落ちた。なんだか、急に空気が張り詰めるような……どう考えても、無理に踏み込むべきじゃない。あの件は本当に忘れた方が良いみたい)

「……やっぱり、好きだなあ」

「何が?」

「…………鈴子が」

「ちょっ、シーー!」
(いや、いや、いや!何言ってくれてんの?)

一番言ってはいけない冗談にビビりすぎて、なぜか巻き込まれた私の方が、拓真に向かって静かにしろと言わんばかりに人差し指を立てる。

しゃべり声すら、何か罪を犯した人間のように、潜めいたものになってしまう。

「ここ、恋愛禁止!冗談でもそんな……」

「……冗、談?」

でも、拓真の声には、迷いなんて一つもなかった。緩み切った姿勢はいつの間にか正されていて、まっすぐな目でずっと私を見てくる。

(やばい、どうしよう。拓真が、変だ……)

「俺は、そんな軽々しく、好きとか言わないよ。鈴子だって、分かってるでしょ」

「……ちょっと!一旦ストップ!」
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