結婚当日に夫が愛人を紹介してきたから、ヤケで愛人募集したら王弟殿下が志願してきた件。
 こんな何気ないやりとりが好きだった。軽口を叩き、冗談を言い合い、たまには叱責しあって励まし合う。
 心が折れそうになったとき、彼の存在が支えになった過去は何度もある。今だけは音楽に酔いしれ、彼との時間を堪能したい。
 音楽は盛り上がり、ダンスも終盤にさしかかった。
「イレーヌ。君と共に過ごした時間。俺は忘れないよ?」
「えぇ……私も。あなたは良き友で良きライバルだった」
「そうか……」
 音楽が止み、私たちは二人で手を繋いで深々と頭を下げた。いつもより長めに頭を下げたのは、こぼれそうになる涙を堪えていたからだ。
「……イレーヌ」
 アーヴィンの声に無理やり笑顔を作ってから顔を上げた。
 そして彼がこの国から出ていったと聞いたのは、卒業式を終えてから十日ほど過ぎたとき。
 知見を深めるために近隣諸国を見て回るらしい。国王陛下の右腕となって、国政を担っていくために――。
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