青い青い空
page.57 繋がれた小指、夏の夜道
「――伊代!」
「はははいっ?!」
急に呼ばれた名前に思わず返事をする。どこかで聞いたことがある声に振り返ってみると、全力疾走でもしたのか、そこには膝に手を置いて肩で息をしている宵の姿があって。
「よ、宵くん? ど、どうして……」
「ああ? どうしてだあ? ふざけんじゃねえぞこの不良女」
加えて、こめかみにこれでもかというほど青筋を立てていた。けれど、不良女とは聞き捨てならない。
「連絡一つ寄越しゃしねえで、どこほっつき歩いてるのかと思えば」
「え。でも、夕食は外で食べるって言っ」
「御託はいらねえ。帰んぞ」
「えっ。ちょ、宵くん……!」
手加減無しに指の付け根から握り潰され、思わず悲鳴を上げそうになる。加えて左手を左手で掴まれているせいで、思うように歩けず一歩進むごとつんのめりそうに。
思わず振り返ると、右京は今にも『どうぞお構いなく』と言い出しそうな顔で、今まさに煙草に火を付けようとしていた。まさか、本当にこの人は全てを理解しているというのだろうか。
しかし、一度ならず二度までも失礼な帰り際ではいられない。お願いちょっと待ってと、何とか必死に呼び止め、宵の足を止めさせた。
「あ、あの。右京さん」
「僕から申し上げられることはありません。どうぞ、お気を付けてお帰りください」
「え?」
「まあ、強いて申し上げることがあるとすれば――」
そこまで言いかけた彼は、紫煙を纏ったまま、子供っぽい笑顔を浮かべてこう言った。
何事も、素直が一番ですよ――と。