鈴村君の裏の顔

第1話 ハプニング



「由佳……またその話?(笑)」

大学の一角に建っている
おしゃれなカフェテリア。
午後の柔らかい光がガラス越しに差し込む中、
私はアイスカフェラテのストローを
くるくると回しながら、
正面に座る可愛い親友の顔を見た。

「またってなに!?」
「だってね、昨日のMOONの配信が……」

佐々木由佳は、
目を輝かせながらスマホの
画面を私に向けてくる。
そこに映っているのは、
きらきらした笑顔の男性アイドルたち。


「ほら!センターの鈴村隼人君!」
「王子様すぎない!?」


「あ、うん……すごいね。」

私は曖昧に笑って相槌を打つ。
正直、芸能人に全く興味はない。
都内の大学に通うため、
実家を出て一人暮らしを始めてからは、
授業と趣味と家事に追われる毎日で、
アイドルを追いかける余裕なんてなかった。

それよりも私は……
家に帰って、
続きを読んでいる漫画や、
今期のアニメの考察をしている
時間の方がずっと好き。


「望愛って本当に、」
「アイドルに興味ないよね。」


「うん。」
「どっちかって言うと、」
「私は二次元派かな(笑)。」
「今日も家帰って趣味を満喫しなきゃ。」


そう言うと、由佳が少し呆れたように笑う。



「また漫画?」


「またってなに。」
「今読んでるやつ、」
「伏線回収が神でね……」

そこからは、つい熱が入ってしまった。


「最初はただの学園モノだと」
「思わせといて、実は世界観が二層構造で、」
「序盤の何気ないセリフが」
「後半で全部繋がるの!」
「アニメ版も作画が安定してて、」
「特に第7話の演出が——」


「はいはい、出た出た(笑)。」
「望愛、戻っておいでー!」

由佳は笑いながらも、
ちゃんと話を聞いてくれる。

「漫画もアニメも、」
「感情の積み重ねが丁寧だから好きなの。」
「キャラの心の動きがちゃんと描かれてると、」
「胸がぎゅってなるでしょ?」


「望愛が語ると、」
「ちょっと見たくなるのが悔しい(笑)。」

そんな会話をしながら、私は思う。

私はこういう世界で満足なんだって。

キラキラした芸能界なんて、
私の一人暮らしの部屋には似合わない。

「あっ!それはそうと!」
「クール系担当の樋口優希君がさ、」
「ほんと最高で……!」

由佳があまりにも熱心に語るから、
MOONの名前と顔くらいは、
自然と覚えてしまった。


クール系担当の樋口優希。
セクシー系担当の宮部隆二。
リーダーの森下翔太。
そして、王子系担当、鈴村隼人。


「由佳は樋口君推しだっけ?」


「そう!!」
「あのクールな感じが最高なの!」
「でもね、たまに見せる優しい笑顔が……」


由佳の話は止まらない。
私はそれを聞きながら、
心の中で思う。


アイドルって、
私とは別の世界の人だよね……。


そう、私はただの普通の大学生。
一人暮らしの小さな部屋で、
地味だけど穏やかな毎日を送っていた。


——少なくとも、あの日までは。
< 1 / 60 >

この作品をシェア

pagetop