鈴村君の裏の顔


「隼人君……ここまでで……」

私が言おとする言葉に重ねて
隼人君は遮る。


「家まで送る。」

その言葉に、望愛は思わず立ち止まる。


「えっ?……隼人君?」



「ん?なんだ?」


「なんだ?じゃなくて……」
「駅まで送るって、言ってましたよ?」
「それに申し訳ないですし。」

家までって……そんなアイドルに
家まで送らせるなんてできないよ。

少し困ったように、
やんわりと断る。

すると隼人君は、
一瞬だけ眉を動かしてから、
面倒そうに息を吐いた。



「あぁ……言ったな」
「駅までって。」


隼人君はあっさり認める。


「でも、やっぱ家まで送る。」
「だから、家どこなのか教えろ。」



あまりにも迷いのない言い方に、
私は言葉を失う。
そして言葉を失って数秒経ってから
ようやく口を動かした。


「えっ……」
「意味がわからないんですけど……。」


「このままここで」
「帰す気ねぇから。」

低く、強気な声。
やっぱりこの人は強引だ。


「それとも、」
 「ここでずっと押し問答する?」

……この人、絶対折れない。
隼人君って結構頑固なのかな……。

私は内心諦めていた。
そして小さくため息をつく。


「……分かりました。」

渋々、観念したように。

「最寄り駅、〇〇線の……」


「最初から素直にそうしとけ。」

満足そうに言われて、
思わずむっとする。


”素直に”って私……素直に
断ったんだけど……。
やっぱり苦手……だわ。

けれど、なんだかんだで
そのまま並んで改札を抜け、
ホームへ向かう足取りは、
不思議と自然だった。

電車に乗り込むと、
夜の車内は思ったより静かで、
隼人は人の流れを見て、
望愛を壁側へとさりげなく誘導する。


「おい、ここ。」

隼人君短く言って、
私の立つ位置を指定してくる。
また、断ったら2つや3つ、
俺様発言が返ってきそうだと、
思った私は指定された外側に立つ。

近すぎず、遠すぎずの距離。

けれど……
同じ吊り革の下に立つ距離は、
どうしても意識してしまう。

電車が揺れるたび、
肩が触れそうで触れない。


あまりこのようなシチュエーションに
慣れていない私は……
……落ち着かない。

私がそう感じている間にも、
隼人君は何食わぬ顔で、
窓の外を眺めていた。


こうして、着々と電車は夜の夜景を
窓に映しがら走って、
気が付けば5駅目の最寄り駅に到着
していた。



「ここだろ」

隼人君は先に出入口の扉の前で、
降りる体勢をする。
私も慌てて隼人君続いた。

ホームに降り立つと、
空気が少しひんやりしていた。

駅を出て、
住宅街へ向かう道。

街灯に照らされながら、
二人並んで歩く。

「ここから10分くらいです。」

「意外と歩くな。」

「静かで、住みやすいですよ。」

会話は短いのに、
沈黙が気まずくない。

十分ほど歩いたところで、
見慣れた賃貸マンションが見えてくる。


「……ここです。」
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