鈴村君の裏の顔

優希
「翔太……。」


次に、
隆二が腕を組んだまま口を開く。

隆二
「なぁ、優希。」

低く落ち着いた声。

隆二
「お前、小学生の頃の初恋を」
「ちゃんと大事に胸にしまったまま」
「ここまで来たんだろ?」

優希
「……っ。」

隆二
「それ、弱さじゃねぇよ。」

隆二はにかっと笑う。

隆二
「むしろ、めちゃくちゃ一途なんだよ。」


その言葉に、喉が小さく鳴る。


隆二
「俺はさぁ、」
「隼人見てて思うんだよ。」


一瞬、ドアの方へ視線を投げる。

隆二
「あいつは、」
「欲しいものは絶対に手放さねぇ」
「って性格だろ?」

優希
「……」


隆二
「でもな……」
「お前も、同じ目してる。」

胸が、どくんと大きく鳴った。
きっと、隆二の言う通りだと
身体が反応したのだと思った。

隆二
「優しさで引くのは、」
「簡単だと思う。」

隆二は真剣な顔で言う。

隆二
「でもそれって……」
「三上さんの気持ちを」
「勝手に決めつけることにもなる。」


翔太が、その言葉を引き取る。

翔太
「好きなら、」
「ちゃんと好きでいていい。」
「隼人に勝とうとしなくていい。」
「でも、自分の気持ちに逃げたら駄目。」


優希は、
ゆっくりと拳を握る。

「……俺」
「隼人には、勝てないかもしれない。」

ぽつりと落ちた弱音。



翔太は、首を横に振った。

翔太
「だから、優希……」
「勝ち負けじゃないんだよ。」

翔太
「三上さんが、」
「誰を選ぶかなんだ。」
「それを決めるのは、」
「優希でも隼人でもない。」


隆二が、優希の肩を軽く叩く。


隆二
「だからこそだ」
「お前は、お前のままで行け。」

隆二
「素はわがまま王子でもいい」
「独占欲丸出しでもいい」
「全部ひっくるめて、優希だろ?」

おれは、隆二の言った言葉が
胸に染みてしばらく黙っていた。

そして、小さく息を吐く。

優希
「……ありがとう。」

声はまだ震えていたが、
さっきより、確かに前を向いていた。

優希
「俺……」
「ちゃんと、好きでいる。」

その宣言は、
誰に聞かせるでもないのに、
強かった。

翔太は微笑み、
隆二は満足そうに頷く。

三人の視線が、
自然とドアへ向かう。

その向こうで、
隼人と望愛ちゃんの距離が
確実に縮まっていることを、
全員が分かっていた。

だけど……俺の恋は、
まだ終わっていない。

むしろ、ここからが本番だった。






──帰り道

夜の風は、昼間より少しだけ冷たかった。

駅へ向かう道は、
寮から少し離れると人通りも減り、
街灯の光が一定のリズムで足元を照らしている。

隼人君と並んで歩く、その距離感が、
私には妙に落ち着かなくて、
それでいて、どこか安心感もあった。


「今日、本当人通り少ないから」
「……静かだね。」

ぽつりと呟くと、
隼人は前を向いたまま「そうだな」
と短く返す。

次の瞬間だった。

交差点を曲がった先、
一台の車が思ったより近くを通り過ぎる。

その瞬間、隼人君は何も言わず、
自然すぎるほど自然に、
私の横から車道側へ一歩前に出た。



一瞬、何が起きたのか分からなかった。

気づいた時には、
隼人君の背中が、自分と車の間にあった。



「……!?」


「ボーッとすんな。」

振り返らずに、
低い声で隼人君は言う。


「危なっかしいんだよ。」

隼人君はそれだけ言って
歩き続ける。

触れたわけでも、
腕を引いたわけでもない。

ただ……
位置を変えただけ。


なのに――
胸の奥が、きゅっとする。
なんだろ……この感覚。


こうして私と隼人君
しばらく歩道を歩いていると、

駅の改札が見えてきたところで、
隼人君は足を止め、
当然のように言ってきた。
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