鈴村君の裏の顔



「ここでは、」
「プライベート。」


じわじわと私に
一歩、近付いて来る。

私は、近付いて来る優希君から
後退りをする。

だけど……そんなのお構いなしに
優希君は話しを続ける。


「誰にも取られたくない時間。」

その言葉に、心臓が跳ねる。


「俺の隣にいるときくらい、」
「俺だけを見てよ……。」


あぁ……完全なる独占欲。
望愛が……戸惑ってるなぁ。


「なっ!?///」

胸が、変な音を立てる。
優希君!?これは……一体、
どう言う意味なの?


「……」

呼び捨て……

練習、しろって言われた。

今しかない気がした……。

私は勇気を振り絞る。


いざ、優希君の事を呼び捨て
で呼ぶとなると……
変に喉が渇いてしまう。

そして……みるみる唇が震える。


「……ゆ、」

思うように声が出ない。

優希君がじっと待っている。

こんなまっすぐと見てくれてるのに
逃げちゃ……失礼だよね。

私は逃げない。
目も逸らさない。


「……優希」

小さな、小さな声。
でも確かに私は、
優希と呼び捨てで呼んだ。

時間が止まった感覚になって、
私は優希君の目を見つめる。

優希君の目が大きく見開かれていた。
マスク越しからでもわかる……
きっと口が開いている。
優希君が驚いているのが一目瞭然で
わかった。

優希君……耳まで赤い……。


「……もう一回……」
「もっかい呼んでよ。」


「え!?」
「なっ……なんで!?」

そんなに、呼び捨てが良いのだろうか?
男の人ってそーゆー生き物なの?

隼人君にも、”呼び捨てで呼べ”って
言われたし……。


私としては、人気アイドルの人達を
呼び捨てにするなんて、本当は
なるべくなら避けたい……。


「望愛……お願い。」


優希君……声、震えてる。
私はもう一度、
少しだけはっきり言う。


「優希。」

望愛が”優希”と呼び終えた瞬間……
俺は顔を両手で覆った。


「やば……///」

俺は小さく呟く。


「何それ……破壊力すごすぎ。」


俺は本気で照れている。

嬉しさが隠せていない。

目が、完全に甘い。

望愛は、照れてる表情を
見せながらも心配そうに覗き込み
俺を見る。


「そんな顔しないで……」

「えっ!?」
「私……どんな顔してるの!?」


「俺、今たぶん相当やばい……」


そう言って、
片手で私の頭をそっと撫でる。

「わっ///!!!」

私……頭、撫でられてる!?
凄く優しい手つき……。

手が頭の先から徐々にズレて
優希君の指先が髪をすくう。

逃げ場のない距離……
これ……さすがに……恥ずかしい。


「頑張ったね。」

優希君はニッコリと笑顔で
私を褒める。

「望愛、偉いよ。」


そう言って優希君は再び頭のてっぺんに
戻り私は撫でられるたび、
胸がじんわり熱くなる。

お兄ちゃんとかいたら、
こんな感じなのかな?

胸がポカポカする。


優希君の指が、
少しだけ名残惜しそうに離れる。
でも……視線は離れない。


「俺だけの呼び方にしたいくらい。」


俺は、ぽつりと口に出してしまった。

「……?」

意味がわからず首を傾げる望愛。


俺は苦笑する。

「ほんと鈍感(笑)。」

そう言いながら俺は、
購入したポップコーンを差し出す。

そして、シアターの中へ入る。

席は中央で隣同士。

シアター内が暗くなり、
予告映画の紹介がいくつかあった後に
映画が始まる。

スクリーンには、
俳優としての優希君。

でも私の隣には、
少し照れて赤くなった“優希”君がいる。
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