鈴村君の裏の顔


私と優希君はカフェを出ると、
空気は少し冷えていた。

お昼前のやわらかい太陽の光が、
ショッピングモールのガラスに反射している。
今日、天気が良くて良かったと思った。

並んで歩く。

優希君はさりげなく人の
流れから私を守る位置に立つ。

人混みの中で、肩が触れそうになるたび、

彼の腕がほんの少しだけ前に出る。

今、人にぶつかりかけたところを
守ってくれたの?

こーゆところ……隼人君に似て
優しいなぁ……。



「映画、何時からだっけ?」


「12時20分からだよ。」



「じゃあちょうどいいね。」


歩幅は自然に揃う。


私のペースに合わせてくれていることを
この時の私は気付いていなかった。


映画館のフロアに着くと、
ポスターの前で立ち止まる人たちがいる。

そして、ポスター前でスマホで写真を
撮ってる人集りでそこの場所だけ、
熱気が出ていた。

すっ……凄い……これが推し活と言う
ものなんだね。

由佳も撮りたかっただろうな。

由佳に送ってあげようと、
ポスター、写真を撮りたかったけれど
さすがにあの人集りに割って入れないと
私は、断念した。



主演は、優希君と森下君。

“MOON”の優希君と森下君。

ポスター越しの、完璧な笑顔。

隣にいるのは、その本人の優希君。

不思議な感覚。


「……やっぱりすごいね。」


私がぽつりと言う。
すると優希君は首を傾げながら
不思議そうに私の顔を覗き込んで言う。

「何が?」

「こうしてポスターになってるの。」


優希は少しだけ視線を逸らす。


「今はただの客だから。」

そう言いながら、
私の反応を横目で見ている。


「そっ……そだね。」
「本人だとバレないように」
「優希君気を付けてね。」



「うん、ありがとう。」


チケットを発券して、
売店へ向かう。


「ポップコーン食べる?」


優希君が、 メニュー表に指を指して
私に聞いてくる。


「うん!食べる!」


「味は?」



「キャラメル一択で!」

私は即答に答えた。

すると優希君は柔らかく笑う。

「甘いの好きだよね。」


「うん。」


「俺も……好き。」

その“俺も”の言い方がやけに柔らかい。

ポップコーンを受け取るとき、
店員さんが優希君を二度見する。

でも帽子とマスクでギリギリ
気付かれない。

それでも周囲の女性達の視線は集まる。

ざわ、と小さな空気の揺れ。

その瞬間――

優希君の手が、
私の手首をそっと掴んだ。

右手首からじんわりと優希君の、
体温が伝わってくる。
でも……何で手首掴まれたんだろ……。


「行こ。」


「えっ!?」

掴まれた手首から、
ぎゅっと少し力が入ったのを
感じた。

でもそんなに強くない。

ただ、自然に掴まれた
手首が歯がゆい……。

人の視線から遠ざけるように
私達はシアタールームへ向かう。

あれ……?

シアターへ向かう通路……
暗くて、少し静か。

優希君の手は、まだ離れない。


「優希君……?」
「手首……。」

私は小声で、言うと優希君は
私の顔見てぴたり、と足が止まる。

まっすぐに見られた
その目が、真剣で目が離せなくなる。


「名前に君がついた……」

「え?」

「今、優希“君”って言った。」

あ、と思ったときには遅い。


「敬語は?」

俺は少し低い声で言う。
どこか独占欲が滲むような
そんな声で……

「……」

映画館の薄暗い照明の中で、
優希君の目だけがやけに近い。

今日の優希君……いつもと違う……。
どう反応したら良いかわからないよ……。


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