鈴村君の裏の顔


「ほんと!?」

「うん。」
「だって、小学生の時友達」
「だったのに、今はなれませんなんて」
「おかしな話しでしょ?(笑)」


「……良かったぁ。」


ほっとしたように笑うその顔に、
私の胸が温かくなる。

そして、そうしてる内に
料理が次々と運ばれてくる。


「美味しそう!」


「分けよ。」
「望愛、取り皿取って。」

パスタを取り分け、
ピザを切って、サラダも一緒に。


パスタから良い香りが私達の
周りに広がって、ピザも負けじと
トマトソースとチーズの濃厚の
香りがパスタの香りと一緒に
広がった。


同じものを食べるだけなのに、
距離が近く感じる。


「これ、美味しい!」

「あっ、本当だ。」
「これ、俺の好みの味。」

そんな他愛ない会話。

気が付けば時間は、
あっという間に過ぎていた。


店を出ると、
空は少し夕方に近づいていた。


「そろそろ、帰ろっか。」


「うん、そだね。」

駅に向かって歩き出す。

私達は並んで歩いてるけれど
さっきよりも、自然で
あまり緊張せずに歩けている
自分がいた。





*隼人side*



現場の空気は、
いつも通り張りつめていた。

照明が熱を持ち、カメラが俺を追い
スタッフの声が飛び交う。
ここは俺の“戦場”で、同時に“居場所”。


「隼人さん、」
「次ラストカットです!」


「了解です!」

短く返事をして、俺は深く息を吸った。

――切り替えろ。

今の俺は、
“誰にでも優しく、完璧で隙のない王子様”。

本当の俺は、全部奥にしまい込む。

そしてカメラが回る。

ヒロイン役の女優に向かって、
柔らかく微笑む。

「無理しないで。」
「君が笑ってくれるなら、」
「それで良いんだ……。」


台詞を吐き出すたび、
観客が求めている“理想の男”を演じる。

……慣れてる。

慣れすぎるくらい。
俺自身でも、たまに引くくらいだ。

「カット! OKです!」


周りのスタッフから拍手が起こる。

俺は一礼して、
すっと王子の顔のままその場を離れた。


控室に戻る途中……
さっきのシーンに出ていた脇役の
女優が下心丸出しで近付いてくる。


「隼人さーん!」


甘ったるい声。
はぁ……ウザっ……めんどくせぇ。


笑顔を瞬で作り上げて
振り向くと、距離が近い。


「さっきの演技、本当に素敵でした!」


「ありがとう。」

自然な笑顔。
壁を作らない、完璧な距離感。


「今日の衣装もすごく似合ってて……」

視線が、わざとらしく上から下へ。

……あー、はいはい。

内心で溜息。

「このあと、少し時間あります?」

誘いの言葉。

ほら、きた。

でも、俺は少し首を傾げて、
申し訳なさそうに微笑む。


「ごめん。次の準備があって。」


角が立たない断り方。
我ながらうまく断れたと思った。

「そ、そうですよね……」


残念そうにしながらも、
どこか諦めきれていない目。


この女は正直レベルが高い……。
さすが、今業界から推されてる
若手女優なだけある。

……昔だったら、
適当に流して、相手してたかもしれない。

でも今は、違う。

頭の片隅に、
勝手に浮かぶ顔があるから。

望愛……

望愛の事を考えただけで一瞬で、
気が緩みそうになる。
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