鈴村君の裏の顔
ダメだ……。
俺は今仕事中だ。
「そう言う事なので、」
「失礼します。」
そう言って、
笑顔を見せその場を離れた。
控室で衣装を脱ぎながら、
鏡に映る自分を見る。
王子の笑顔。
整った顔。
誰もが好む“鈴村隼人”。
……つまんねぇ。
ふと、そう思ってしまう。
望愛が最初に現れた時の事が、
脳裏をよぎる。
家政婦として現れた望愛。
俺に向かって、遠慮なく言い返してきた目。
困った顔……
怒った顔……
俺に興味のないと言う態度……
それでも、ちゃんとあいつは俺を見てた。
“王子”じゃなく、
“本当の俺”を。
……”目が離せねぇ”
あの時……気付いたら
そんな言葉を心の中で呟いていた。
今や俺は……
あいつに、完全に興味を持って
完全に惚れてしまっている。
いや……
もしかしたらそれ以上かもしれない。
「隼人、次の出番まで少し時間あるぞ。」
マネージャーの声で現実に戻る。
今日、マネージャーの石田さんは
俺の現場に同行。
歳もは29歳で俺と10歳離れていて
メンバー全員から頼られている
存在。
「了解。」
帽子を被り、マスクをつける。
サングラスはやめた。
今日はそこまで隠す気分じゃない。
「ちょっと外、出てくる。」
「人混みは避けてくれ。」
「分かってる。」
そう答えて、
俺はスタジオを出た。
冷たい空気が頬に触れる。
――少しだけ、自由。
街をぷらぷらと歩く。
ただの一人の男として。
ショーウィンドウを眺め、
人の流れに身を任せる。
カップルや友達同士での
楽しそうな笑い声。
……普通の生活か。
俺には縁がないと思ってた。
でも……
望愛と並んで歩く姿を、
無意識に想像してしまう。
肩が触れる距離。
何でもない会話。
笑う声。
//////!!!
……チッ!
なに……想像してんだよ俺!
自分で自分に苛立つ。
こんな感情、久しぶりすぎる。
いや、初めてかもしれない。
歩きながら、スマホを確認する。
特に連絡はない。
そりゃそうだ……連絡先なんて
知らねえもん。
それなのに、
胸の奥がざわつく。
理由は分かってる。
今日、望愛は休みだ。
由佳って言うやつと出かけるって、
昨日言ってたな。
……親友の由佳って誰なんだよ。
勝手に考えて、勝手にムカつく。
俺様気質なのは自覚してる……
独占欲が強いのも。
だからこそ、
今まで恋愛は避けてきた。
でも――
……面白ぇ女に出会っちまった。
足が、自然と止まる。
何かに引き寄せられるように。
その先で、
俺は“見てしまう”ことになる。
この時の俺は、
まだ知らなかった。
このあと胸をかき乱す光景を、
自分が目撃することになるなんて。
隼人 side 終わり